就職や転職活動で欠かせない「自己PR」ですが、何を書けばよいのか迷う方も多いでしょう。多くの応募書類に目を通す採用担当者に対して、自分の魅力を効果的に伝え、数多くのライバルの中から選ばれるためには、戦略的なアプローチが求められます。
この記事では、自己PRを単なる「作文」から「自分という商品を売り込むための企画書」へとレベルアップさせる方法を、4つのステップで分かりやすく解説していきます。
- 自分だけの自己PRを作るための、具体的な4つの手順
- 採用担当者に評価されるポイントを押さえた、アピール方法
- ありきたりな長所を、説得力のある「武器」に変える具体的な技術
1.書く前の「戦略」が9割!まずは採用担当者の視点を理解しよう

良い自己PRを書くための第一歩は、「採用担当者が何を知りたいのか」を理解することです。採用担当者は、限られた時間の中で多くの応募書類に目を通しています。そのため、効率よく選考を進めるために、特に次の3つのポイントに注目して採用作業を進めています。
- 会社のニーズと一致しているか
あなたの強みが、会社が求めている能力や人物像と合っているか - 入社後も強みを再現できるか
過去に発揮した強みを、入社後も同じように発揮して、成果を上げてくれそうか - 将来的に会社に貢献できる可能性
あなたを採用することで、会社にどのような利益をもたらしてくれるか
採用担当者は、単に「あなたの過去のすごい経験」を知りたいわけではありません。「その経験から得た能力を、うちの会社でどう活かしてくれるのか」という、未来に向けた視点で評価しているのです。
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「採用担当者の視点をもっと詳しく知りたい」という方は、ぜひ以下の記事もご覧ください。自己PRの戦略的な書き方など、実用的な情報をまとめています。
2.自己PRを作るための4ステップ

自己PRの土台となる自己分析や、文章の骨組みの作り方など、採用担当者の心に響く自己PRを書く方法を≪4ステップ≫で紹介します。
【ステップ1】素材集めと自己分析
説得力のある自己PRを作るには、具体的で信頼性のある「エピソード」という材料が欠かせません。そして、そのエピソードを見つけ出すために必要なのが「自己分析」です。ステップ1では、キャリアの棚卸しができる自己分析方法を3つご紹介します。
キャリアの棚卸し1|厚生労働省が提供するジョブ・カードを活用
自己分析の客観性を高めて、内容を充実させるために、厚生労働省が提供している「ジョブ・カード」の活用がとても役に立ちます。
ジョブ・カードとは?
ジョブ・カードとは、厚生労働省が定め2008年から導入された「キャリア形成支援ツール」です。統一されたフォーマットに、これまでのアルバイト経験やボランティア活動、取得した資格・免許、職業訓練の履歴など、幅広い内容を記載します。
■主に、自己分析やキャリアコンサルタントとの面談などで使用されています。
ジョブ・カードを作ることで、自分の学歴や職歴、そこで得たスキルや知識を客観的に整理できます。この作業を通して、自分では気づかなかった強みやアピールポイントも発見でき、自己PRの説得力ある根拠として使うことができるのです。
参照:厚生労働省「ジョブ・カード制度」
キャリアの棚卸し2|自分史(Personal History)を作成する
これまでを丁寧に振り返る手段として、子どもの頃から現在までの自分史を作成するのもよい方法です。以下のような項目を、時系列で書き出してみましょう。
- 印象に残っている出来事
- その時どう感じたか
- 何を頑張ったか
- どんな困難を乗り越えたかなど
自分史を作成することで、自分が何を大切にしているのか、どんな時に力を発揮するのかといった、一貫した強みを見つけ出すことができます。
キャリアの棚卸し3|モチベーショングラフ(Motivation Graph)を作成する
過去の出来事に対して、自分のやる気がどのように変化したかをグラフにする方法です。モチベーションが高かった時期の出来事からは「やりがいを感じること」や「得意なこと」が分かります。

逆に、モチベーションが下がった状態から回復した経験からは、「課題を解決する力」や「粘り強さ」といった強みが見つかります。
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自己分析や経験の棚卸しについては、以下の記事でも詳しく解説しています。特に、自分にあった仕事がみつからないと悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
【ステップ2】15秒で伝わる「PREP法」で設計図を作る
【ステップ1】でアピールできるエピソードが見つかったら、次はそれを最も効果的に伝えるための「設計図」を作成します。ビジネスシーンの基本的なコミュニケーション方法であり、自己PRの構成で最も定番なのが「PREP法」です。
PREP法とは?
PREP法は、以下の4つの要素で話を組み立てる作文方法です。
- Point(結論)
最初に、「私の強みは〇〇です」と、一番伝えたい自分の強みを伝える - Reason(理由)
なぜそれが自分の強みだと言えるのか、その背景や理由を説明する - Example(具体例)
その強みを発揮した具体的なエピソードを、状況や自分の行動、そして得られた結果を含めて詳しく書く - Point(結論/貢献)
最後に、その強みを活かして、入社後に会社へどのように貢献したいかを述べて、話を締めくくる
特に「結論から話す」というルールは必ず守りましょう。忙しい採用担当者は、まず冒頭の文章で「この人が何をアピールしたいのか」をすぐに理解しようとします。
【ステップ3】説得力を10倍にする肉付け作業
設計図が完成したら、次はその骨格に「肉付け」をする作業に入ります。ここでの目的は、あなたの主張が単なる「自称」ではなく、誰もが納得する「事実」だと感じられるようにすることです。そのための鍵は、「数字で示すこと」と「言葉を言い換えること」にあります。
以下で詳しくみていきましょう。
数字で示す:あなたの「主張」を「事実」に変える
「コミュニケーション能力があります」のような、あいまいなアピールは説得力に欠けます。その主張を裏付けるためには、具体的なエピソードに「数字」を盛り込むことが非常に効果的です。
■例えば…
アルバイトで売上の向上に貢献しました
↓
アルバイトでSNSを使ったプロモーションを提案・実行し、担当した店舗の20代のお客様の数を、前の年の同じ時期と比べて2.5倍に増やしました
◎具体性と説得力が一気に高まります。
このように「売上を前年比で20%アップさせた」「作業時間を10%削減した」といった数字を使った表現は、あなたの貢献度を明確に示してくれます。
言葉を言い換える:ありきたりな長所を「自分だけの武器」に
「協調性」や「真面目さ」といった言葉は、多くの学生が使うため、そのままではありきたりな印象を与えてしまいがちです。しかし、これらの言葉を、あなたの行動がイメージできるような具体的な言葉に言い換えることで、他の候補者と大きく差をつけることができます。
ありきたりな長所 | 「武器」に変わる言い換え表現の例 |
---|---|
コミュニケーション能力 | 「意見が異なるメンバーの間に入り、合意形成をうながす調整力」 |
協調性 | 「チーム全体の目標達成のため、率先して地味な役割も引き受ける献身性」 |
責任感 | 「一度任された仕事は、どんな困難があっても最後までやり遂げる力」 |
真面目さ | 「誰も見ていないところでも、決められたルールや手順をきちんと守る誠実さ」 |

具体的なエピソードも添えると、さらに説得力がまします。
【ステップ4】「だから、私を採用すべきだ」と納得させる締め方
自己PRの締めくくりは、単なる挨拶ではありません。「これまで話したことを踏まえると、だからこそ私は御社に貢献できるのです」と、採用を後押しするための最終アピールです。応募する会社への貢献を明確に示すことで、自己PRは初めて完成します。
この最後のステップを成功させるには、応募する会社が「どんな人材を求めているのか」を深く理解する「企業研究」が欠かせません。企業の採用ページや求人情報に書かれている「こんな方を求めています」「歓迎するスキル」といったキーワードに注目しましょう。
そして、自分の強みがそれらのキーワードとどう結びつくのかを具体的に示します。
■例えば…
採用ページに「主体的に業務改善に取り組める人材」とある場合
【自己PRの締め方例】
私の強みである『問題解決能力』を活かし、〇〇という業務の非効率な点を見つけ、改善提案を行うことで、チーム全体の生産性向上に貢献したいです。
このように、自分の強みと会社のニーズをはっきりと結びつけてアピールしましょう。
3.強み・職種別|自己PRの例文

これまでの4ステップを踏まえて作成した自己PRの例文を、2つご紹介します。そのまま真似するのはおすすめしませんが、構成の流れや表現の工夫などを参考にして、自分らしい言葉で仕上げてみてください。
【例文1】傾聴力をアピールしたい場合
私の強みは、相手が言葉にしていない本質的なニーズを汲み取る「傾聴力」です。
大学の学園祭実行委員会で広報を担当した際、始めはSNSでの告知がなかなか伸びずに悩んでいました。そこで、各企画の担当者一人ひとりに、「企画のどの部分に一番ワクワクしますか」という点を深く聞いて回りました。
その結果、彼らが持つ情熱の源こそが、来場者に伝えたい本当の魅力だと気づきました。その点を強調した文章と写真で改めて告知したところ、SNSのエンゲージメント率(反応率)を以前の3倍に向上させることができました。
貴社でもこの傾聴力を活かし、お客様がまだ言葉にできていない隠れた課題を引き出し、最適な解決策を提案することで、顧客満足度の向上に貢献したいと考えております。
【例文2】営業力をアピールしたい場合
私の強みは、目標達成に向けて粘り強く行動できる力です。
学生時代に通信サービスの訪問販売アルバイトをしましたが、当初は契約をなかなか獲得できずに苦戦しました。そこで私は、断られた理由を全て記録して分析し、お客様への説明内容を毎日改善しました。
さらに、担当エリアに住む人々の特徴を調べ、時間帯ごとに訪問するターゲットを絞る戦略を立てて実行しました。その結果、3ヶ月後には同期50人の中でトップの契約数を達成し、月間MVPとして表彰されました。
この経験で身につけた、目標から逆算して地道に行動を続ける力を、貴社の営業職として発揮し、事業目標の達成に貢献できると確信しております。
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「もっと例文を見てみたい」という方は、以下の記事もぜひご覧ください。職務経歴書の自己PRについて、状況別に豊富な例文を紹介しています。
4.評価を下げてしまうNGな自己PR

次のような自己PRは、かえって評価を下げてしまう可能性があります。自分に当てはまっていないか、あらかじめ確認しておきましょう。
- 内容が抽象的で具体性に欠けている
「コミュニケーション能力が高いです」と主張するだけで、それを裏付けるエピソードが書かれていないと評価されません。 - 内容が短すぎたり長すぎたりする
文章が短すぎると意欲が低いと見なされる可能性があり、逆に長すぎると要点が伝わりにくくなります。指定された文字数以内で8割以上を書くことを目安にしましょう。 - 内容に嘘や大げさな表現がある
事実と違うエピソードを話すと、信頼を大きく失うことになります。 - 会社が求める人物像とアピール内容がずれてる
チームワークを重視する会社に対して、個人での成果ばかりをアピールするなど、企業研究が不足していることが分かってしまいます。

自己分析や企業研究を丁寧に行っていれば、避けられる失敗です。
5.自己PRでよくある質問

自己PRを作る際、多くの人がもつ疑問をまとめました。実際に作成を始める前に、一度目を通しておくとよいでしょう。
Q.「自己PR」「自己紹介」「長所」に違いはあるの?
A.これらの言葉は、目的と伝える内容がはっきりと異なります。
「内容がかぶってしまう」と悩む方は、以下の表を参考に書き分けましょう。
項目 | 目的 | 主な内容 |
---|---|---|
自己紹介 | 自分が誰であるかを簡潔に伝える挨拶 | 氏名、所属、経歴の要約など、基本的なプロフィール情報を伝えます。 |
長所 | 人柄や性格的な良さを伝えるもの | 自分の性格の中で、良い側面を伝えます。客観的に自分を分析できているかが見られます。 |
自己PR | 会社に貢献できる能力を売り込むセールス | 経験に裏付けられた自分の強みが、入社後にどう活かせるかという貢献意欲をアピールします。 |
Q.履歴書、エントリーシート、面接で内容は変えるべきですか?
A.はい、伝える相手や状況に合わせて、表現方法を戦略的に変えましょう。
- 履歴書では、スペースが限られているため、最も伝えたい強みとその根拠となるエピソードの要点を、キャッチコピーのようにまとめましょう。
- エントリーシートでは、履歴書に書いた内容をさらに詳しく説明します。PREP法に沿って、エピソードの状況、課題、自分の行動、結果を具体的に記述します。
- 面接では、エントリーシートに書いた内容を元に、より感情や熱意を込めて、自分の言葉で話します。エピソードの背景や、その時にどう考えたかなどを補足し、面接官からの深い質問に備えましょう。
6.「受かる自己PR」をつくる4つの戦略ステップ
「採用担当者に響く自己PR」とは、ただ美しい言葉を並べただけのものではありません。
第一に、徹底した自己分析によってアピール材料を見つける。
第二に、採用担当者の視点を意識し、PREP法を使って構成する。
第三に、数字を使ったり、具体的な言葉に言い換えたりして説得力を加える。
第四に、会社への貢献というゴールにしっかり結びつける。
この4つのプロセスを経て作成された自己PRは、自身の強みだけでなく、物事を深く考える力や論理的に話を組み立てる力、そして企業への熱意まで、企業に伝えてくれるでしょう。