試用期間中に辞めることは法的に可能か、退職の権利、失業保険や転職への影響(デメリット)、円満に辞める手順と履歴書の書き方まで解説します。
試用期間中ではあるものの、「社風が合わない」「仕事内容が想像と違った」と感じ、退職を考えている方もいるかもしれません。
しかし、試用期間中に辞めることへの不安や、法的なリスク、キャリアへの影響を考えると、なかなか一歩が踏み出せないことも多いでしょう。
この記事では、試用期間中の退職に関する法的な権利と、失業手当や転職活動といった現実的なリスク、そして後悔しないための判断基準や円満退職の具体的な手順について、法的な観点と、キャリア形成の観点の双方から解説します。
- 試用期間中でも退職が法的に可能であること
- 試用期間での退職に伴う主なリスク(失業保険・転職への影響)
- 円満退職のための具体的な手順と退職後の手続き
1.結論:試用期間中でも退職は「可能」だが注意点あり

試用期間中であっても、法的には通常の労働者と同様の権利が保障されています。
たとえ就業規則に異なる定めがあっても、法律に基づき、労働者自身の意思で雇用契約を終了させることが可能です。その根拠となるのが民法です。
法的根拠:退職の申し出は2週間前まで(民法第627条)
まず結論として、試用期間中であっても退職することは法的に可能です。
試用期間も正式な雇用契約(労働契約)であり、労働者には「退職の自由」が保障されています。
法律(民法第627条第1項)では、期間の定めのない雇用の場合は、退職の意思表示から2週間が経過すれば雇用契約を終了できると定められています。
就業規則で「1ヶ月前」などと定められている場合でも、法律が優先されるのが原則です。
また、会社との合意がある場合や、やむを得ない事由(ハラスメントや明らかな法令違反など)がある場合は、2週間を待たずに即日退職が認められるケースもあります。
早期離職は珍しくない?客観的なデータ
新規大卒者の3年以内離職率
約 3人に1人 (33.8%)
「半年以内の早期離職」があった企業
企業の 57%
参考:厚生労働省|新規学卒者の離職状況
参考:エン・ジャパン株式会社|「早期離職」実態調査(2025)
試用期間で辞めることに「自分だけではないか」と罪悪感を抱くかもしれませんが、客観的なデータを見ると早期離職は珍しいことではありません。
例えば、厚生労働省の調査(新規学卒者の離職状況)を基にした分析では、新規大学卒業者の約3人に1人(3年以内離職率33.8%)が早期に離職している実態が示されています。
また、ある調査では、直近3年で「半年以内での早期離職」があった企業は57%に上るという結果もあります。
早期のキャリアチェンジは、現代において一般的な選択肢の一つとなりつつあります。
参考:厚生労働省|新規学卒者の離職状況
参考:エン・ジャパン株式会社|「早期離職」実態調査(2025)
2.試用期間で辞める前に知るべき3大リスク(デメリット)
① 金銭的リスク:失業手当がもらえない可能性
失業手当の受給要件
→ 要件未達 (収入ゼロのリスク)
② キャリアリスク:転職活動で不利になる可能性
③ 法的リスク(の誤解):損害賠償や給与未払いの不安
誤解 損害賠償を請求される
真実 よほど悪質なケースでない限り、法的に稀
誤解 給料が支払われない
真実 働いた分は全額支払われる義務がある
退職は可能ですが、勢いで判断する前に、いくつかの現実的なリスク(デメリット)を理解しておく必要があります。
①金銭的リスク:失業手当(雇用保険)がもらえない可能性
最も大きなデメリットの一つが、失業手当(雇用保険の基本手当)を受給できない可能性が高いことです。
失業手当の受給要件は、原則として「離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12ヶ月以上あること」と定められています。
試用期間中(例:数週間~数ヶ月)での退職では、この要件を満たせないため、退職しても失業手当を受け取れず、次の仕事が見つかるまで収入がゼロになるリスクがあります。
②キャリアリスク:転職活動で不利になる可能性
短期間での離職は、次の転職活動において不利に働く可能性があります。
採用担当者は、履歴書を見て「またすぐに辞めてしまうのではないか」「忍耐力や適応力に問題があるのではないか」という懸念を抱きがちです。
なぜ短期間で辞めるに至ったのか、その理由を合理的かつ前向きに説明できなければ、選考のハードルが上がることは覚悟しておく必要があります。
③法的リスク(の誤解):損害賠償や給与未払いの不安
「試用期間で辞めたら損害賠償を請求されるのでは?」「給料はもらえないのでは?」といった不安を聞くことがありますが、これらは多くの場合、誤解です。
労働基準法上、労働した分の給与は全額支払われる義務が会社にあります。
また、労働者には退職の自由があるため、試用期間中に退職したという理由だけで損害賠償を請求されることは、よほど悪質なケース(故意に重大な損害を与えた場合など)でない限り、法的には極めて稀です。
3.試用期間で辞めることのメリット

リスクがある一方、早期に退職を決断することには明確なメリットもあります。
最大のメリットは、合わない職場環境や仕事内容から早期に離れることで、心身の健康を守れることです。
我慢して働き続けた結果、メンタルヘルスを損なってしまっては、その後のキャリア再開がより困難になります。
また、早期に「この仕事は合わない」と見切りをつけることで、貴重な時間を無駄にせず、より自分に合ったキャリアへ早く軌道修正する機会を得ることができます。
4.辞めるべきか迷った時の判断基準

退職という決断は、キャリアにとって大きな分岐点です。
勢いで決めて後悔しないよう、まずは「なぜ辞めたいのか」を冷静に分析することが不可欠です。その理由は、大きく分けて2つのパターンで考えると整理しやすくなります。
理由は「環境(社風・人間関係)」か「能力不足」か
退職を迷う理由は人それぞれです。「社風がどうしても合わない」「人間関係がつらい」といった環境要因は、個人の努力で変えるのが難しい場合があります。
一方で、「能力不足を感じる」という理由の場合、少し立ち止まる必要があります。
試用期間は、そもそも仕事を覚えるための期間です。教育体制やサポートの問題かもしれませんが、自身の努力や時間の経過で解決できる可能性もあります。
辞める前に試すべきこと(上司への相談など)
退職届を出す前に、まずは直属の上司や人事に相談することを推奨します。
「能力不足で不安を感じている」「現状の業務で〇〇に困っている」と具体的に相談することで、サポート体制が改善されたり、部署異動などの別の選択肢が示されたりする可能性もあります。
5.円満退職のための具体的な4ステップと伝え方
直属の上司へ口頭で伝える
退職理由の伝え方のポイント
NG 会社や人間関係への不満をストレートに伝える
OK ポジティブな(建前でも可)理由を準備する
退職届の提出(「退職願」との違い)
退職願 (お願い)
会社に退職を願い出る書類。承諾されるまでは撤回できる可能性あり。
退職届 (通告)
退職を通告する書類。原則として撤回不可。
業務の引継ぎと有給休暇の消化
「引継ぎ書」を文書で残す
有給休暇の残日数を確認し、消化を相談する
退職を決意した場合、トラブルを避けて円満に退職するための手順を踏むことが重要です。
STEP1:直属の上司へ口頭で伝える(伝える相手とタイミング)
退職の意思は、まず「直属の上司」に口頭で伝えるのが社会的なマナーです。
人事や上司の上司に先に伝えると、指揮命令系統を無視したとしてトラブルの原因になります。
伝えるタイミングは、法律上は2週間前ですが、円滑な引継ぎのため、就業規則の定めに従い「少なくとも2週間前~1ヶ月前」に伝えるのが一般的です。
STEP2:退職理由の伝え方のポイントと例文
円満退職の鍵は「退職理由の伝え方」にあります。たとえ会社側に不満があったとしても、それをストレートに伝えるのはトラブルの原因となり、避けるべきです。
伝える際の3つのポイント
- 感謝と謝罪をまず伝える:「試用期間という短い間でしたが、ご指導いただき感謝しております」「ご期待に沿えず申し訳ありません」など、まず感謝と、早期退職になってしまうことへの謝罪を伝えます。
- 理由は「前向き」かつ「個人的」なものに:会社への不満(人間関係、給与、労働時間など)を理由にするのではなく、「自分の適性」や「将来のキャリアプラン」といった、あくまで個人的で前向きな理由として説明します 。
- 退職の意思が固いことを示す:引き止めにあった場合も、退職の意思が固いことを毅然とした態度で伝えます 。ただし、感情的にならず冷静に話すことが重要です。
退職理由の例文
【例文1:一身上の都合(基本形)】
お忙しいところ恐れ入ります。本日は、退職のご相談がありお時間をいただきました。
試用期間中に大変恐縮なのですが、一身上の都合により、退職させていただきたく存じます。
【例文2:業務や社風とのミスマッチを伝える場合】
お時間をいただきありがとうございます。
試用期間を通じて業務に取り組む中で、誠に申し訳ありませんが、自分が想定していた業務内容(あるいは、貴社の〇〇という社風)と、私自身の適性との間にギャップがあることを認識いたしました。
このままではご迷惑をおかけし続けることになると判断し、大変恐縮ですが、退職させていただきたく存じます。
【例文3:別のキャリアへの挑戦を理由にする場合】
お時間をいただきありがとうございます。
実務を経験させていただいたことで、改めて自分自身のキャリアプランを見つめ直しました。その結果、以前から関心のあった〇〇の分野への挑戦したいという気持ちが日に日に強くなってしまいました。
会社には何の不満もございません。あくまで私個人のわがままで大変申し訳ありませんが、退職させていただきたくお願い申し上げます。
STEP3:退職届の提出(「退職願」との違い)
上司との話し合いで退職日などが合意できたら、会社の規定に従い「退職届」または「退職願」を提出します。
「退職願」は会社に退職を願い出る(合意を求める)書類で、承諾されるまでは撤回できる可能性があります。
一方、「退職届」は退職を通告する書類で、原則として撤回できません。円満退職の場合は、まず「退職願」で相談するのが一般的です。
【法務的な補足】
法的には、タイトルの違いよりも「内容」が重視されます。民法第627条に基づく退職(辞職)は、労働者からの一方的な意思表示であり、会社の承諾は不要です。
たとえ「退職願」というタイトルでも、内容が「〇月〇日付で退職します」という明確な通告であれば、法的には「退職届」と同様に扱われ、原則として撤回できなくなるため注意が必要です。
STEP4:業務の引継ぎと有給休暇の消化
退職日までに、後任者への業務引継ぎを責任を持って行います。誰が見ても分かるように「引継ぎ書」を文書で残すことが不可欠です。
残った有給休暇を消化することは、労働基準法で認められた正当な権利です。引継ぎのスケジュールと調整しながら、上司に相談して消化しましょう。
▼あわせて読みたい
試用期間に限らず、退職時には様々な手続きが必要です。こちらの記事では、円満退職から退職後の公的手続きまで、やるべきことを時系列で網羅的に解説しています。
6.退職後に必要な手続き(失業保険・社会保険)

退職後は、公的な手続きを自分で行う必要があります。
失業保険(雇用保険)の手続きの流れ
前述の通り、試用期間での退職は、失業手当の受給要件(原則として離職日以前2年間に、被保険者期間が通算12ヶ月以上)を満たせない場合がほとんどです。
もし要件を満たしている場合、手続きの一般的な流れは以下の通りですが、自己都合退職の場合はすぐには支給されない点に注意が必要です。
【失業保険 手続きの主な流れ】
- 書類の受領
退職後、会社から「離職票」と「雇用保険被保険者証」を受け取ります。 - ハローワークでの手続き
住所地を管轄するハローワークへ行き、「求職の申込み」を行い、離職票などを提出して「受給資格の決定」を受けます。 - 待期期間(7日間)
受給資格が決定した後、7日間の「待期期間」が全員に適用されます。この期間中は給付金は支給されません。 - 給付制限期間(自己都合の場合)
※前職と合わせて受給要件を満たしている場合、試用期間での退職(自己都合)では、待期期間終了後、さらに原則1ヶ月間の「給付制限期間」が設けられます。このため、実際に給付が始まるのは手続きから約2ヶ月後になる可能性があります。
(※2025年4月の改正法施行後の基準です。5年間で3回以上の自己都合退職の場合などは制限期間が異なります。) - 受給者説明会への参加
指定された日時の説明会に参加し、「雇用保険受給資格者証」を受け取ります。 - 失業認定と求職活動
原則として4週間に1度、ハローワークへ行き、求職活動の実績(原則2回以上)を報告し、「失業認定」を受けます。 - 給付金の受給
失業認定が下りると、指定した口座に給付金が振り込まれます。以降、所定給付日数が終わるまで6と7を繰り返します。
参考:労働基準監督署|令和7年4月1日以降に離職された方は 「給付制限期間」が1か月に短縮されます
健康保険と年金は切り替えが必要
退職日の翌日から、会社の健康保険の資格を失います。速やかに(原則14日以内)、次のいずれかの手続きが必要です。
- 国民健康保険に加入する
- 家族の健康保険の被扶養者になる
- 会社の健康保険を任意継続する(最長2年間)
年金も同様に、厚生年金から「国民年金(第1号被保険者)」への切り替え手続きが市区町村の窓口で必要です。
7.試用期間の退職と履歴書の書き方

退職後に次の転職活動へ進む際、この短期間の職歴をどう扱うかは大きな悩みどころです。選考で不利になることを恐れて、履歴書に記載すべきか迷う方も少なくありません。
試用期間中の退職歴は履歴書に書くべきか?
非常に短期間(例:数日~1ヶ月未満)であれば、あえて記載しないという選択も考えられますが、公的には「履歴書にはすべての職歴を正確に記載する」のが原則です。
補足:
試用期間中であっても、所定の労働時間を満たせば社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険への加入は法律上の義務です。保険加入が適正に行われていれば、短期間であってもその履歴は公的に残ります。
特に、雇用保険や社会保険の加入手続きが完了していた場合、次の会社で手続きの際に(雇用保険被保険者証などで)判明してしまいます。
判明した場合、「経歴を偽った」として信頼を失うリスクが非常に高いため、記載するのが無難です。
面接での伝え方(ネガティブをポジティブに)
書類選考を通過した場合、面接で必ず短期間での退職理由を聞かれます。
この際、前職への不満や愚痴を言うのは厳禁です。
「実際に業務に就く中で、自分のキャリアプラン(〇〇)を実現するためには、早期の軌道修正が必要だと判断した」など、反省と学び、そして将来への前向きな意欲として語ることが重要です。
▼あわせて読みたい
転職活動では履歴書と職務経歴書の使い分けが重要です。こちらの記事を参考に、それぞれの役割の違いを理解し、あなたの価値を最大限に伝える書類を作成しましょう。
8.権利とリスクを理解し、計画的に次のキャリアへ
試用期間中の退職は、法律上は可能ですが、失業手当がもらえない金銭的リスクや、転職活動が不利になるキャリアリスクを伴います。
勢いで決めるのではなく、まずは上司に相談するなど、現状を改善する努力も試みましょう。
それでも退職を決意した場合は、法的な権利と社会的なマナー(円満退職の手順)を守り、計画的に引継ぎや退職後の手続きを進めることが、次のキャリアへの第一歩となります。