中途採用で新しい会社に入社したものの、「思っていた環境と違う」「人間関係がうまくいかない」と悩み、1年未満での退職を考えてしまうことは、決して珍しいことではありません。
しかし、いざ「辞める」となると、「忍耐力がないと思われるのではないか」「次の転職に不利になるのではないか」という不安が頭をよぎるものです。
この記事では、データから読み解く退職理由の「本音と建前」や、早期離職がキャリアに与える影響、そして法的な観点からの退職の権利について解説します。
現状を客観的に整理し、次のステップへ進むためのヒントとして活用してください。
- 中途採用者が1年以内に退職する「本当の理由」と「建前の理由」の違い
- 早期離職を「失敗」ではなく「戦略的撤退」にするための考え方
- 退職時の法的な権利と、円満に辞めるための具体的なステップ
1.中途採用者が一年で退職する「理由」のリアル

「1年も経たずに辞めたいと考える自分は甘いのではないか」。そう自分を責めてしまう前に、まずは世の中の実態を数字で見てみましょう。
厚生労働省の調査によると、入職者の約15%が離職しており、人材の流動化は一般的なものとなっています。
ここでは、退職理由の「本音と建前」のデータから、早期離職の実情を紐解きます。
「本音」と「建前」には大きな乖離がある
退職理由には、会社に伝える「建前」と、心の中に秘めた「本音」の2つが存在します。
民間企業の調査データによると、会社に伝えた退職理由のトップは「別の職種や業界への挑戦」といった前向きなものや、「家庭の事情」といったやむを得ない事情が多く挙げられます。
しかし、退職者が回答したアンケートによる「本当の退職理由」の1位は、圧倒的に「人間関係」です。次いで「給与への不満」「社風とのミスマッチ」が続きます。
つまり、多くの人が「本当の不満」を隠し、波風を立てないもっともらしい理由を伝えて退職しているのが現実です。「人間関係で悩み、辞めたくなっている」という状況は、決して特別なことではありません。
なぜ「入社半年」が鬼門になるのか
また、早期離職が決断されるタイミングとして多いのが、「入社半年(約5.5ヶ月)の壁」です。ある調査では、離職までの平均期間は約5.5ヶ月という結果が出ています。
これは、入社後3ヶ月から6ヶ月の「試用期間」が終了するタイミングと重なります。入社直後の緊張感が解け、会社の良い面だけでなく悪い面も見え始める時期です。
また、入社時に期待されていた「即戦力」としてのプレッシャーが強まり、十分なサポート(オンボーディング)がない中で孤立感を深めやすい時期でもあります。
参考:株式会社AlbaLink|【入社1年以内に会社を辞めた理由ランキング】男女333人アンケート調査
2.なぜ「辞めたい」と感じてしまうのか?(構造的な原因)
ショック
早期離職の原因は、個人の忍耐力不足だけにあるのではありません。
多くの場合、入社前のイメージと現実との間に生じる構造的なミスマッチが影響しています。
入社前のイメージと違う「リアリティ・ショック」
入社後に「話が違う」と感じる衝撃を「リアリティ・ショック」と呼びます。
求人票や面接では、企業側も良い人材を確保しようと、自社の魅力を強調する傾向があります。
その結果、「残業は少ないと聞いていたのに実態は違う」「裁量があると言われたが、実際はトップダウンだった」といったギャップが生じます。
特に中途採用の場合、「即戦力なのだから、これくらいは言わなくてもわかるだろう」という企業側の期待と、「中途入社者だからこそ、丁寧な説明が必要」という求職者側のニーズがすれ違い、放置されたような感覚に陥ることがあります。
中途入社者特有の「人間関係の壁」
新卒入社の社員が多い組織では、独特の社内用語や暗黙のルール、すでに出来上がっている人間関係の輪が存在することがあります。
中途入社者は、そこに後から入っていく「異邦人」のような立場になりがちです。周囲に気軽に質問できる相手がおらず、疎外感を感じてしまうケースは少なくありません。
これは個人のコミュニケーション能力の問題というよりは、中途入社者を受け入れる組織の体制(メンター制度の有無など)に起因する問題と言えます。
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職場の人間関係に悩んでいる方は、こちらの記事を参考に心理的な距離の取り方や「気にしない」コツを知ることで、ストレスを軽減できる可能性があります。
3.一年以内に退職しても大丈夫?3つの観点から多角的に解説
一年以内に退職しても大丈夫?
「逃げ」ではなく「戦略的撤退」ならOK
退職は労働者の守られた「権利」
「自分を責める」思考から抜け出す
では、実際に1年以内で退職することには、どのようなリスクや考え方があるのでしょうか。3つの観点から解説します。
【キャリアの視点】「逃げ」ではなく「戦略的撤退」ならOK
キャリアには「逃げ」と「戦略的撤退」の2種類があります。
単に「嫌だから辞める」というのは、次の職場でも同じ問題を繰り返すリスクがあるため推奨されません。
しかし、自身のキャリアプランと照らし合わせ、現職に留まることが目標達成の妨げになると判断した場合や、心身の健康を損なうリスクがある場合は、早期に見切りをつけることも重要な戦略です。
大切なのは、その退職が「次の目標に向かうための前向きな選択」であると、自分自身で定義づけられるかどうかです。
【法律の視点】退職は労働者の守られた「権利」
「辞めたいと言ったら怒られるのではないか」「損害賠償を請求されるのではないか」と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、日本国憲法では「職業選択の自由」が保障されています。民法第627条では、期間の定めのない雇用契約の場合、退職の申し入れから2週間が経過すれば契約は終了すると定められています。
※なお、契約社員などの「期間の定めのある雇用」の場合は、原則として契約期間中の退職には「やむを得ない事由」が必要となります(民法第628条)。ご自身の雇用形態を確認しましょう。
※なお、契約社員などの「期間の定めのある雇用」の場合は、原則として契約期間中の退職には「やむを得ない事由」が必要となります(民法第628条)。
ただし、1年以上勤務していれば、いつでも退職が可能です(労基法附則137条)。
就業規則で「退職は1ヶ月前に申し出ること」となっていても、法律が優先されます。
引き継ぎなどのマナーは考慮すべきですが、法的には労働者には辞める権利が強力に保障されており、会社側がこれを強制的に引き止めることはできません。
参考:e-Gov 法令検索|民法
参考:e-GOv 法令検索|労働基準法
【心理の視点】「自分を責める」思考から抜け出す
早期離職を考える際、最も避けるべきなのは「自分はダメな人間だ」と自己否定に陥ることです。
産業カウンセリングの現場でも、環境とのミスマッチを個人の能力不足と捉えてしまい、メンタルヘルスを悪化させるケースが見られます。退職は「相性が合わなかった」という一つの事実に過ぎません。
「この環境は自分には合わなかった」というデータを一つ得たと捉え、自分を責めるエネルギーを、自分に合った環境を探すエネルギーへと切り替えることが大切です。
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こちらの記事では、短期離職を「逃げ」ではなく戦略的な選択として捉えるための考え方について、詳しく解説しています。キャリアの視点から短期離職を理解したい方におすすめです。
4.早期離職を次のキャリアで「強み」に変える伝え方

短期離職の事実は変えられませんが、それをどう伝えるかによって、採用担当者が抱く印象は大きく変わります。
ネガティブな理由をポジティブに変換する
退職理由が「人間関係」や「労働条件」であったとしても、面接でそのまま伝えるのは得策ではありません。未来志向の言葉に変換しましょう。
- 「人間関係が悪かった」
→「チームワークを重視し、互いに協力し合える環境で成果を出したい」 - 「仕事がつまらなかった」
→「より専門性を高め、〇〇のスキルを活かして事業に貢献したい」 - 「残業が多すぎた」
→「メリハリをつけて働き、自己研鑽の時間も確保しながら長く活躍したい」
このように、「何が嫌だったか」ではなく「次はどう働きたいか」を語ることで、意欲的な姿勢をアピールできます。
「やむを得ない事情」と「反省点」をセットにする
早期離職の場合、採用担当者は「またすぐに辞めるのではないか」と懸念します。
もし、入社前の条件と実態が著しく異なっていた等の「やむを得ない事情」がある場合は、事実を客観的に伝えても構いません。
ただし、会社を一方的に悪く言うのではなく、「私自身の事前の確認不足もあった」といった反省点を付け加えることで、誠実さと学習能力を示すことができます。
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転職面接でよく聞かれる質問とその回答例を知っておくことで、早期離職の理由も含めて自信を持って答えられるようになります。こちらの記事を面接対策の参考にしてください。
5.円満に退職するための具体的なステップ
退職の意思表示は
「直属の上司」へ
引継ぎと
同僚への配慮
退職を決意したなら、最後はトラブルなくスムーズに去ることが重要です。
退職の意思表示は「直属の上司」へ
「直属の上司」が、退職の意思を伝える相手として必ず選ぶべき人物です。さらに上の上司や人事にいきなり伝えるのは、直属の上司の顔を潰すことになり、トラブルの元です。
また、法律上は2週間前で良いとされていますが、社会人のマナーとしては、就業規則を確認し、可能な限り1ヶ月~3ヶ月前を目安に伝え、トラブル回避のために証拠(メール等)を残しておくと、後任の選定や引継ぎがスムーズに進みます。
引継ぎと同僚への配慮
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉通り、丁寧な引継ぎは自分の評価を守るためにも不可欠です。
業務内容や進行状況、関係者の連絡先などをまとめた「引継ぎ書」を作成し、誰が見ても業務が回る状態にしておきましょう。
最後まで責任を持って業務にあたる姿勢は、退職後の自身の自信にも繋がります。
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退職手続きの全体像を把握したい方は、退職の法的権利から円満な進め方、退職後の各種手続きまでを網羅した、こちらの記事をご覧ください。
6.早期離職を「次へのステップ」に変えるために
退職は終わりではなく、新しいキャリアの始まりです。データが示す通り、ミスマッチによる早期離職は珍しいことではありません。
大切なのは、「なぜ辞めたいのか」「次はどうしたいのか」を冷静に分析し、同じミスマッチを繰り返さないことです。
自分ひとりでの判断が不安な場合は、転職エージェントなどの第三者に相談し、客観的な意見をもらうのも有効な手段です。
今の苦しい経験を「失敗」で終わらせず、自分らしい働き方を手に入れるための「糧」に変えていきましょう。この記事が、次のキャリアを切り拓く一助となれば幸いです。