「敬語が正しく使えているか不安で、発言をためらってしまう」「面接やメールで失礼がないか心配」。このような悩みは、新入社員からベテランまで多くのビジネスパーソンが抱えています。
実は、学校で習った「尊敬・謙譲・丁寧」の3分類だけでは、複雑な現代のビジネスシーンに対応しきれないケースが増えてきました。
曖昧な理解のまま言葉を選ぶことは、日々のストレスになるだけでなく、意図せず相手に誤解を与えるリスクすら招きかねません。
本記事では、文化庁の指針に基づく「敬語の5分類」を紐解き、誰に対しても迷わず適切な言葉を選べるようになるためのロジックを解説します。
さらに、いざという時に役立つ「動詞変換リスト」や「シーン別実践フレーズ」も網羅しました。正しい敬語を味方につけ、円滑なコミュニケーションと信頼関係を築くための手引きとしてご活用ください。
- 「尊敬・謙譲・丁寧」だけでは足りない?文化庁指針「5分類」の正しい理解
- 【保存版】面接・メール・電話ですぐに使える動詞の敬語変換一覧
- 「させていただく」の乱用など、評価を下げがちなNG敬語と対策
1.【基本】敬語は「5分類」が正解|仕組みと敬意の方向
従来の分類では区別しきれない「聞き手への丁重さ(丁重語)」などを明確にし、現代のビジネス実態に合わせるためです。
この仕組みを理解すれば、「誰が」「誰に」敬意を払うかが明確になり、敬語の誤用が減ります。
学校では「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類と習った記憶があるかもしれません。
しかし、現在の文化庁の指針(平成19年「敬語の指針」)では、より現代のコミュニケーション実態に即し、敬語を「尊敬語」「謙譲語I」「謙譲語II(丁重語)」「丁寧語」「美化語」の5つに再定義しています。
なぜ「尊敬・謙譲・丁寧」だけでは足りないのか
従来の3分類では、複雑なビジネスシーンを説明しきれないケースが増えてきました。
特に「自分の行為をへりくだって言うけれど、相手への敬意というよりは、話を聞いている相手への丁重さを示す」といった微妙なニュアンス(丁重語)を区別することで、より適切な言葉選びが可能になります。
この仕組みを理解すれば、「誰が(主語)」行い、「誰に対して(敬意の方向)」気を使っているのかが明確になり、誤用が激減します。
1.尊敬語|相手を高める
相手の行為、状態、持ち物などを高めて表現し、その人物への敬意を示す言葉です。「いらっしゃる」「おっしゃる」などが該当します。主語は常に「相手(取引先、上司、面接官など)」になります。
- 主語(誰が): 相手(取引先、上司、先生など)
- 敬意の方向: 行為をする人へ
- 代表例: いらっしゃる、おっしゃる、召し上がる、お読みになる
2.謙譲語I(本来の謙譲語)|自分を下げて、相手を立てる
自分の行為をへりくだって表現することで、その行為の向かう先にいる相手を高める言葉です。
- 主語(誰が): 自分(または身内)
- 敬意の方向: 行為の対象となる相手へ(立てるべき相手が必要)
- 代表例: (先生のお宅に)伺う、(社長に)申し上げる、(荷物を)お持ちする
3.謙譲語II(丁重語)|自分を律して、聞き手を立てる
自分の行為を丁重に話すことで、話を聞いている相手(聞き手)への敬意を示す言葉です。ここが3分類では説明しきれなかった部分であり、現代ビジネスで最も重要な区別です。
- 主語(誰が): 自分(または身内)
- 敬意の方向: 聞き手へ(行為の対象となる相手は不要)
- 代表例: (私は)参ります、(電車が)参ります、(私は〇〇と)申します、いたします
- ポイント: 「伺う(謙譲語I)」は行く先に敬う相手が必要ですが、「参る(謙譲語II)」は行く先に敬う相手がいなくても(例:実家に帰る、トイレに行く)、目の前の聞き手が目上であれば使えます。
4.丁寧語|言葉を丁寧に整える
文末などを丁寧にすることで、聞き手への配慮を示す言葉です。
- 役割: 語尾に「~です」「~ます」「~ございます」をつけ、言葉遣いを丁寧にします。
- 美化語: 「お茶」「ご飯」「お料理」のように、言葉の頭に「お」や「ご」をつけて上品にする言葉です。相手への敬意というよりは、言葉そのものを美しくする役割があります。
5.美化語|言葉そのものを美しくする
相手への敬意とは関係なく、言葉を上品にするために使われます。
- 役割: 品位を保ちます。
- 代表例: お酒、ご飯、お料理、お化粧
- 注意点: 何にでも「お」をつければ良いわけではありません(例:×おビール、×おタバコ)。
参考:文化庁|敬語の指針
2.【保存版】よく使う動詞の敬語変換一覧リスト

ビジネスシーンで頻出する動詞の変換リストです。迷ったときにすぐ確認できるよう、基本を押さえておきましょう。
これだけは覚えたい!形が変わる「特殊形」の動詞
最も間違いやすいのが、元の言葉から形が大きく変わる動詞です。
| 元の言葉 | 尊敬語(相手が~する) | 謙譲語(自分が~する) | 丁寧語 |
|---|---|---|---|
| 行く | いらっしゃる おいでになる | 伺う(謙譲I) 参る(謙譲II) | 行きます |
| 来る | いらっしゃる お見えになる お越しになる | 参る(謙譲II) | 来ます |
| いる | いらっしゃる おいでになる | おる(謙譲II) | います |
| する | なさる される | いたす(謙譲II) | します |
| 言う | おっしゃる | 申し上げる(謙譲I) 申す(謙譲II) | 言います |
| 見る | ご覧になる | 拝見する(謙譲I) | 見ます |
| 聞く | お聞きになる | 拝聴する(謙譲I) 伺う(謙譲I) 承る(謙譲I) | 聞きます |
| 食べる | 召し上がる | いただく(謙譲I) | 食べます |
| 知る | ご存じだ | 存じ上げる(謙譲I) 存じる(謙譲II) | 知っています |
どんな言葉にも使える「変換ルール」
特殊形がない動詞でも、以下の型に当てはめることで敬語を作ることができます。
- 尊敬語: 「お(ご)~になる」「お(ご)~くださる」「~れる・られる」
- 例:お読みになる、ご出席くださる、帰られる
- 謙譲語I: 「お(ご)~する」「お(ご)~いただく」
- 例:お持ちする、ご案内する、ご説明いただく
「お」と「ご」の使い分けルール
基本的には、和語(訓読み)には「お」、漢語(音読み)には「ご」がつきます。
※「お」+訓読み(お水)、「ご」+音読み(ご意見)
- 「お」がつく例: お名前、お忙しい、お手紙、お帰り
- 「ご」がつく例: ご連絡、ご住所、ご説明、ご親切
※例外として、「お電話」「お食事」(漢語だが「お」)など、日常的に定着しているものもあります。
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履歴書やメールで正しい敬語を使いこなすことは、書類選考を通過するための重要なポイントです。敬語の基礎を押さえたら、こちらの記事を参考に、実際の応募書類での活用方法もチェックしましょう。
3.【シーン別】そのまま使える敬語の実践フレーズ

知識として知っていても、実際の場面でパッと出てこなければ意味がありません。よくあるシーンごとの「正解フレーズ」を紹介します。
面接・採用|「御社」と「貴社」、父・母の呼び方
面接では、緊張から普段使わない言葉が出がちです。焦って不自然な表現にならないよう、頻出する基本の呼び方を事前に整理しておくことが重要です。
- 企業の呼び方:
- 話し言葉(面接時):御社(おんしゃ)
- 書き言葉(履歴書・メール):貴社(きしゃ)
- 銀行の場合:御行(おんこう)/貴行(きこう)
- 家族の呼び方(自分の家族を話す時):
- お父さん・パパ → 父
- お母さん・ママ → 母
- お兄ちゃん・兄貴 → 兄
ビジネスメール|書き言葉特有の変換
メールなどの文章では、話し言葉よりも改まった表現が好まれます。
- 昨日 → さくじつ
- 今日 → ほんじつ
- 明日 → みょうにち(あす、でも可)
- あとで → のちほど
- さっき → さきほど
- すぐに → さっそく、ただちに
電話・来客対応|「バイト敬語」と言われないためのチェックポイント
アルバイト等の接客で広まった独特の表現(いわゆるバイト敬語)は、ビジネスシーンでは違和感を持たれることがあります。
- × よろしかったでしょうか → ○ よろしいでしょうか
- × ~になります → ○ ~でございます
- 「変化してそうなる」わけではない場合(例:こちらが資料になります)は、「でございます」が適切です。
- × ~のほう → ○ (削除)、使わない
- 「資料のほう、お持ちしました」ではなく「資料をお持ちしました」と言い切るほうがスマートです。
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メールでの敬語表現と併せて、履歴書をメールで送付する際のマナーも重要です。こちらの記事を参考に、正しい件名の付け方や本文の書き方を理解して、採用担当者に好印象を与えましょう。
4.【注意】評価を下げてしまう?よくある敬語の「間違い」と対策
丁寧に話そうとするあまり、過剰になったり、使い方がずれてしまったりすることがあります。ここでは代表的なNG例を解説します。
「させていただく」の使いすぎ症候群
「させていただく」症候群
「読ませていただく」「送らせていただく」など、何にでも「~させていただく」をつける傾向があります(「させていただく」症候群とも呼ばれます)。
本来「させていただく」は、「相手の許可を受けて」かつ「そのことで自分が恩恵を受ける」場合に使います。
単に自分の行為を丁寧に言いたいだけなら、「いたします」で十分です。
- △ ー資料を読ませていただきました
- ○ ー資料を拝読しました
丁寧にしようとして逆効果?「二重敬語」の罠
「二重敬語」の罠
1つの言葉に同じ種類の敬語を重ねるのはNG。
一つの語について、同じ種類の敬語を重ねて使うことを「二重敬語」といい、基本的には誤用とされています。
- ×ー おっしゃられる
- 「おっしゃる」(尊敬語)+「れる」(尊敬語)=二重敬語
- ○ ーおっしゃる
- ×ー ご覧になられる
- 「ご覧になる」(尊敬語)+「れる」(尊敬語)=二重敬語
- ○ー ご覧になる
「ご苦労様です」と「お疲れ様です」の決定的な違い
ご苦労様 vs お疲れ様
ご苦労様です
目上 → 目下
部下が使うと失礼!
お疲れ様です
誰にでもOK
迷ったらこれで統一。
「ご苦労様です」と「お疲れ様です」は似ていますが、明確な使い分けのルールがあります。
本来、「ご苦労様です」は「目上の人が目下の人に対して、その労力をねぎらう」ための言葉です。そのため、部下が上司に向かって使ってしまうと、上から目線で評価しているような印象を与え、大変失礼にあたります。
一方、「お疲れ様です」は相手の立場に関わらず使える便利な言葉です。上司への報告や、社内ですれ違った際の挨拶などは、迷わず「お疲れ様です」で統一しておけば間違いありません。
もし間違えてしまったら?リカバリーの方法
誰でも言い間違いはあります。重要なのは、その後の対応です。
もし敬語を間違えたと気づいたら、焦って言い繕うよりも、「失礼いたしました」「言い間違えました」と素直に訂正しましょう。その誠実な姿勢こそが、相手への敬意として伝わります。
過度な自責は不要ですが、ハラスメントと受け取られないよう、相手を尊重する姿勢を崩さないことが法的リスク管理の観点からも重要です。
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敬語は相手への敬意を示す重要なツールです。同様に、「様」と「御中」の使い分けも、ビジネスマナーとして不可欠です。こちらの記事を参考に、正しい使い方をマスターして、社会人としての信頼を高めましょう。
5.敬語は相手への「リスペクト」を伝える心
敬語のルールは細かく、すべてを完璧に使いこなすのはベテランでも難しいものです。しかし、最も大切なのは「型」を守ること以上に、「相手を敬う気持ち(リスペクト)」を持っているかどうかです。
知識として「5分類」や「変換リスト」を持っておくことは、いざという時の「お守り」になります。
自信を持ってコミュニケーションをとるために、ぜひこの記事のリストを活用してください。丁寧な言葉遣いは、今後のキャリアにおける強力な武器となるはずです。