履歴書の志望動機が書けないと悩む求職者は多いのではないでしょうか。
本音の退職理由をポジティブに変換するフレームワークや、志望動機欄なしの履歴書の活用法、面接対策まで、実務とキャリア理論の観点から解説します。
転職活動において、多くの求職者が頭を抱えるのが履歴書の「志望動機」欄です。「特筆すべき動機がない」「条件面で選んだだけ」というのが本音であり、何を書けばよいか分からないという悩みは後を絶ちません。
厚生労働省のデータを見ても、仕事選びで重視する項目として「賃金」「労働時間」などが上位を占めており、立派なビジョンを持って転職する人ばかりではないのが現実です。
しかし、だからといって「特になし」と書くわけにはいきません。
この記事では、人事労務管理の実務とキャリア理論の観点から、「嘘をつかずに」納得できる志望動機を作成するための具体的な手順と、どうしても書けない場合の対処法を解説します。
完璧な文章を目指すのではなく、まずは書類選考の土俵に乗るための準備を整えましょう。
- 「志望動機がない」と感じる原因と、心理的なハードルを下げる考え方
- ネガティブな本音を評価される「キャリアの言葉」に変換する3ステップ
- 履歴書の「志望動機欄なし」を使用する際の注意点とリスク管理
1.なぜ「志望動機がない」と感じてしまうのか?【原因診断】

手が止まってしまうのには、いくつかの明確な理由があります。まずは自身の状況を客観的に把握することで、対処の糸口が見えてきます。
筆が止まる主な要因:3つのパターン
多くの場合、以下の3つのパターンのいずれか、または複合的な要因が考えられます。
- 自己分析不足:自分の強みや、仕事に求める価値観(キャリアアンカー)が言語化できていない。
- 企業情報不足:応募先企業のことをよく知らず、接点が見つけられない。
- 本音がネガティブ:「今の職場が嫌だから辞めたい」という逃避的な理由が先行している。
「熱意」より「適合性」:心理的ハードルの解除
特に心理的な側面として、「企業に媚びるような立派な夢や熱意が必要だ」という思い込み(認知の歪み)が、ハードルを不必要に上げているケースが散見されます。
しかし、ビジネスの現場で求められるのは過剰な情緒的熱意ではなく、「自社の課題を解決してくれる人材か」「組織に定着してくれるか」という合理的な適合性です。
また、キャリア的な視点で見れば、現職への不満は「次はこうありたい」という希望の裏返しでもあります。
「残業が多くて辛い」という不満は、「効率的に働き、成果を出したい」という意欲と捉え直すことが可能です。「ない」のではなく、「まだ言葉になっていない」だけだと捉えてみてください。
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2.どうしても書けない場合の「緊急対処法」と「書かない選択」

思考を整理しても、どうしても志望動機が浮かばない場合や、急いで応募する必要がある場合の現実的な対処法について、法務・労務の観点も交えて解説します。
志望動機欄がない履歴書を使用するのは「あり」か?
結論から申し上げますと、志望動機欄がない履歴書を使用すること自体は問題ありません。
JIS規格(日本産業規格)の解説あり様式(旧様式例)には志望動機欄が設けられていましたが、現在は厚生労働省が推奨する様式など、多様なフォーマットが存在します。
特に、職務経歴書を別途提出する場合、履歴書はあくまで「氏名、住所、学歴、職歴」等の事実証明(公的性格を持つ書類)として機能します。
そのため、戦略的に「志望動機欄のない履歴書」を選び、アピールは職務経歴書の「自己PR」や「職務要約」に集約させるというアプローチも有効です。
ただし、企業側から「指定の履歴書」や「JIS規格の履歴書」を求められた場合は、その指示に従う必要があります。指定がない場合に限り、この選択肢を検討してください。
「特になし」は絶対NG!最低限のマナーと定型句
志望動機欄の空欄・「特になし」は絶対にNG!
志望動機欄がある履歴書を使用する場合、空欄や「特になし」と記述することは避けてください。
これは採用担当者に対し、「入社意欲が低い」「ビジネスマナーが欠如している」というネガティブな印象を与える決定的な要因となります。
どうしても独自の動機が書けない場合でも、最低限のマナーとして、以下のような構成で記述内容を構成することを推奨します。
- これまでの経験・スキルの要約
- その経験が応募先企業の業務で活かせるという確信
- 「貴社の事業に貢献したい」という結び
なお、「本人希望欄」については、特段の希望(勤務地やシフトの制約など)がない場合、「貴社の規定に従います」と記載するのが定型かつ無難な対応です。
3.嘘をつかずに書く!ネガティブ理由をポジティブに変換する「実践的フレームワーク」
本音の退職理由を書き出す
思考のデトックス
「リフレーミング」する
キャリアの言葉に変換
企業との接点を作る
Will-Can-Mustで整理
3つの輪が重なる部分で文章を構成
心にもない嘘をついて作成した志望動機は、面接で見透かされるリスクが高いだけでなく、入社後のミスマッチ(早期離職)の原因にもなります。
ここでは、本音をベースに、ビジネスとして通用する表現に「翻訳」する3つのステップを紹介します。
【STEP1】本音の退職理由を書き出す(デトックス)
まずは、誰にも見せないメモとして、転職したい本当の理由を素直に書き出します。どんなにネガティブな内容でも構いません。
- 給料が安すぎる
- 上司のパワハラが辛い
- 残業ばかりで自分の時間がない
- 単純作業ばかりで飽きた
この工程は、心の奥にあるモヤモヤを吐き出し、自分の価値観を再確認するために不可欠なプロセスです。
【STEP2】「リフレーミング」でキャリアの言葉に変換する
次に、書き出したネガティブな理由を、視点を変える「リフレーミング」という心理テクニックを用いて、ポジティブな志望動機に変換します。
不満の裏にある「欲求」に焦点を当てるのがコツです。
| 本音(ネガティブ) | 変換後(ポジティブ・志望動機) |
|---|---|
| 給料が安い・評価されない | 成果が正当に評価される実力主義の環境で、自身の力を試したい。 |
| 残業が多い・休みがない | 生産性を重視する環境で、メリハリをつけて業務効率を追求したい。 |
| 人間関係が悪い | チームワークを重視し、組織全体の目標達成に貢献できる風土で働きたい。 |
| 仕事がつまらない・飽きた | 新しいスキルを習得し、より広範な業務領域に挑戦したい。 |
【STEP3】Will-Can-Mustで企業との接点を作る
最後に、「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(企業が求めていること)」の3つの輪が重なる部分を見つけ出し、文章を構成します。
STEP2で変換した動機(Will)を実現するために、これまでの経験(Can)を活かし、企業の課題解決(Must)にどう貢献できるか、というロジックで繋げます。
これにより、独りよがりではない、説得力のある志望動機が完成します。
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4.【状況・職種別】そのまま使える志望動機・修正例文集

前述のフレームワークを活用した、具体的な例文を紹介します。ご自身の状況に合わせて調整して活用してください。
未経験職種へ挑戦する場合
未経験の場合、重視すべきは「ポータブルスキル(持ち運び可能な能力)」です。前職の業種が異なっても、コミュニケーション能力や管理能力、PCスキルなどは汎用的に評価されます。
【例文】
前職では販売職として、顧客のニーズを汲み取るヒアリング能力を培ってまいりました。この経験を活かし、貴社の営業職として、お客様の課題解決に貢献したいと考えております。未経験ではございますが、現在は〇〇の資格取得に向けて学習しており、早期に戦力となれるよう尽力いたします。
事務職・定型業務の場合
事務職では、「正確性」「改善意識」「サポート能力」がキーワードとなります。
【例文】
前職では営業事務として、月間〇〇件の伝票処理をミスなく遂行し、業務フローの改善提案により作業時間を10%削減いたしました。貴社におかれましても、正確かつ迅速な業務遂行を通じて、部署全体の生産性向上を下支えしたいと考え、志望いたしました。
ネガティブな理由で短期離職した場合
短期離職の場合、反省と再起への意欲をセットで伝えることが重要です。
【例文】
前職では想定していた業務内容とのミスマッチがあり、短期での退職となりましたが、自身の企業研究不足であったと反省しております。この経験を通じて、改めて〇〇という業務に腰を据えて取り組みたいという思いが強まりました。貴社の〇〇という理念に深く共感し、今後は長期的に貢献していきたいと考えております。
5.書類通過後の「面接」を見据えたリスク管理【法務・労務視点】

履歴書はあくまで「面接への切符」に過ぎません。書類選考を通過すれば、必ず面接で志望動機について深掘りされます。
書類と面接での「一貫性」が最大のリスクヘッジ
ここで重要なのは、「書類に書いたこと」と「面接で話すこと」の一貫性です。書類で立派すぎる嘘をついてしまうと、面接での回答にしどろもどろになり不信感を与えてしまいます。
その意味でも、本音をベースに変換した志望動機を作成しておくことは、面接対策としてのリスク管理になります。
面接は「対等な場」:法務視点での捉え方
また、法務・労務の視点からは、面接は企業が求職者を一方的に選別する場ではなく、求職者も企業を見極める対等な場であることを忘れてはいけません。
職業安定法等の指針により、企業側が思想・信条や家族構成など、業務に関係のないプライバシーに関する質問をすることは制限されています。
もし、一人で志望動機を練り上げるのが難しいと感じる場合は、転職エージェントなどの第三者(キャリアの専門家)を利用し、「壁打ち」相手になってもらうのも有効な手段です。
客観的なフィードバックを受けることで、自分では気づかなかった「強み」や「動機」が見つかることも多々あります。
6.志望動機は「ラブレター」ではなく「ビジネス提案書」
「志望動機がない」という悩みは、決して恥ずべきことではありません。それは、自分のこれまでのキャリアや、これからの働き方について真剣に向き合おうとしている証拠でもあります。
履歴書の志望動機は、企業への「ラブレター」ではなく、自分がどう貢献できるかを示す「ビジネス提案書」です。感情的な熱意よりも、論理的な適合性が重視されます。
今回紹介したフレームワークを活用し、ネガティブな感情をポジティブな提案に変換してみてください。完璧でなくても構いません。まずは作成し、応募への一歩を踏み出すことが、現状を変えるための最大の原動力となります。