「清掃業に興味はあるけれど、ネットで検索すると『やめとけ』『底辺』といった言葉ばかり出てきて不安になる……」
求職活動中、そんな迷いを抱えて手が止まってしまうことはありませんか?
生活になくてはならない仕事であるはずなのに、なぜこれほどまでにネガティブな評判が目立つのでしょうか。そして、それは果たして「真実」なのでしょうか。
この記事では、ネット上の感情的な口コミに惑わされず、「客観的なデータ」「労働法規」「適性(キャリア理論)」という3つの視点から、清掃業界のリアルを徹底解剖します。
この仕事が自身にとって「選ぶべき道」なのか、それとも「避けるべきリスク」なのか、事実に基づいて冷静に紐解いていきましょう。
- 「やめとけ」と言われる4つの理由(3K・低賃金等)と、データに基づく業界の実態
- 自分が清掃業に向いているかが分かる、性格・行動特性による適性診断チェック
- 資格取得や独立など、清掃業で収入と市場価値を高めるための具体的なキャリア戦略
1.なぜ「清掃業はやめとけ」と言われるの? 4つのリスクを深掘り

火のない所に煙は立たぬと言いますが、「やめとけ」というアドバイスには、確かに構造的な根拠が存在します。
まずは、業界が抱える4つのリスクを直視することから始めましょう。
【身体的リスク】清掃業は腰痛や汚れとの戦い(3Kの実態)
清掃業が敬遠される最大の理由は、いわゆる「4K(きつい、汚い、危険、給料が安い)」のイメージと実態です。
特に身体への負担は無視できません。厚生労働省のデータによると、ほかの業種と比べて、清掃業に従事する人は腰痛を訴える割合が高いという報告もあります。
中腰での作業や、重い機材の運搬は、腰や膝に蓄積的なダメージを与えます。
また、現場によってはトイレの汚物や、病院での感染性廃棄物を扱うこともあり、生理的な嫌悪感や感染症リスク(衛生リスク)も「やめとけ」と言われる大きな要因です。
【経済的リスク】清掃業の「月収15万円の壁」と給料事情
「稼げないからやめとけ」という意見も、残念ながら統計的な裏付けがあります。
ある調査によると、ビルメンテナンス業界(清掃含む)における非正規雇用の月収は、15万円未満の割合が72.4%に達しています。
これは全国平均と比較しても給与水準が低く、構造的に賃金が上がりにくい業界であることを示しています。
特に正社員であっても、他業界に比べて昇給幅が小さい傾向にあり、経済的な自立や大幅な年収アップを目指す場合は、厳しい現実が待ち受けています。
参考:ビルメンテナンス業で働く人の雇用と生活の実態調査 | エル・チャレンジ
【社会的リスク】清掃業は「底辺」という偏見と世間体
心理的に最も辛いのが、この社会的リスクかもしれません。
「誰でもできる仕事」「勉強してこなかった人がやる仕事」といった心ない偏見や職業差別的な視線に晒されることがあります。
職業に貴賤はないというのが建前ですが、現実には世間体を気にして、家族や友人に自分の仕事を胸を張って言えないという悩みを抱える現職者も少なくありません。
この精神的なストレス(承認欲求の欠乏)が、離職の引き金になることも多いのです。
【将来性リスク】清掃業はAIやロボットに仕事を奪われるのか?
「そのうちロボットに取って代わられるから、将来性がない」という懸念もあります。
確かに、床掃除ロボットなどの導入は進んでおり、単調なルーティンワークは自動化されつつあります。
スキルが身につかず、ただ「作業」をこなすだけの日々を送っていると、数年後に市場価値が残らないというキャリアリスクも、「やめとけ」の根拠の一つです。
2.数字と法律で見る「清掃業」の意外な真実

ここまでネガティブな側面を見てきましたが、これらはコインの裏表に過ぎません。データや法律の視点で見直すと、清掃業には全く別の「チャンス」が見えてきます。
実は清掃業は「超・売り手市場」。人手不足率88%がもたらすチャンス
ザイマックス不動産総合研究所の調査(2024年)によると、清掃業の人手不足感は88%という極めて高い数値を記録しています。
これは求職者にとっては、完全な「売り手市場」であることを意味します。
企業は人材確保が急務であるため、以下のようなメリットが生まれています。
採用ハードルが低い:未経験、ブランクあり、シニア層でも採用されやすい。
働き方の柔軟化:人手を確保するため、短時間勤務や直行直帰など、柔軟なシフトを認める企業が増えている。
「どこにも雇ってもらえないかもしれない」という不安を持つ方にとって、この高い受容性は大きなセーフティネットとなり得ます。
参考:ビルメンテナンス業の人手不足に関する実態調査 | ザイマックス総研の研究調査
法律上の「清掃業」は、社会を守るエッセンシャルワーク
「底辺」という偏見に対しては、法的な定義を知ることで対抗できます。
清掃事業は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき、公衆衛生を維持するために地方自治体等に義務付けられた、極めて公共性の高い事業です。
街や建物が衛生的に保たれているのは、清掃業務に従事する方々が、ゴミや汚れという「負」を取り除いてくれているからです。
法的に見れば、清掃員は社会インフラを支える「公衆衛生の守護者(エッセンシャルワーカー)」であり、その職業的尊厳(Dignity of Labor)は何人にも侵されるべきものではありません。
参考:廃棄物の処理及び清掃に関する法律|e-Gov 法令検索
清掃業でブラック企業を避けるための「求人票」チェックポイント
清掃業界全体で仕事がきついわけではありません。問題なのは、法を守らない「ブラック企業」です。
労働法制の観点から、求人票でチェックすべきポイントを挙げます。
上記の点について不安がある場合、その企業への応募は控えた方がよいでしょう。
3.清掃業に「向いている人」と「やめておくべき人」の適性診断

清掃業でのキャリアが「正解」になるか「後悔」になるかは、個人の適性とマインドセット次第です。
【適性あり】ルーティンが好き・縁の下の力持ちタイプ
以下のような特徴を持つ方は、清掃業で長く安定して働ける可能性が高いでしょう。
【要注意】承認欲求が強い・不潔な環境が生理的に無理なタイプ
逆に、以下のような方はミスマッチを起こしやすく、精神的に辛くなるリスクが高いため、慎重な判断が必要です。
性格診断:自分の「強み」と「ストレス耐性」を知ろう
「Will-Can-Must」で考える自分のキャリア軸
Will
(やりたいこと)
Can
(できること)
Must
(求められること)
迷っている方は、一度立ち止まって自己分析を行ってみましょう。
「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(求められること)」の3つの円が重なる部分を見つけるフレームワーク を使い、清掃業が自分のキャリアの軸と重なるかを確認します。
Will(やりたいこと・価値観):「黙々と作業に没頭したい」「人間関係のストレスから解放されたい」「体を動かして健康的に働きたい」といった希望がある。
Can(できること・強み): 「決まった手順を正確に守れる」「細かい汚れに気づく」「体力には自信がある」といった能力を持っている。
Must(求められること・企業のニーズ): 企業は「休まずに来てくれる信頼性」「マニュアル通りの品質」「利用者の邪魔にならない配慮」を求めています。
この3つの円が重なる部分が多ければ多いほど、ご自身にとって清掃業は「適職」になり得ます。
逆に、「Will(多くの人と話したい・認められたい)」と「Must(一人作業・縁の下の力持ち)」がズレていると、どんなに条件が良くても、それが大きなストレスの原因となります。
自分の「Can(体力)」だけでなく、「Will(価値観)」が満たされるかを重視することが、長く働くコツです。
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4.清掃業で「勝ち組」になるためのキャリア戦略

清掃業を選んだからといって、ずっと低賃金で働き続けなければならないわけではありません。
戦略的にキャリアを構築することで、市場価値を高める方法は存在します。
資格で武装する(ビルクリーニング技能士、ビル管資格)
専門性を証明する確かな手段は「資格」です。
国家資格である「ビルクリーニング技能士」や、「建築物環境衛生管理技術者(ビル管)」を取得することで、手当がついたり、責任あるポジション(現場責任者やマネージャー)へ昇進したりする道が開けます。
資格は、自身のスキルを客観的に保証し、給与交渉の材料にもなります。
参考:ビル清掃 – 職業詳細 | 職業情報提供サイト(job tag)
建築物環境衛生管理技術者について|厚生労働省
特殊技術を磨いて独立を目指す(ガラス研磨・コーティング)
一般的な日常清掃ではなく、ニッチな分野に特化するのも有効な戦略です。
例えば、特殊な機材を使った「ガラス再生研磨」や「フロアコーティング」などは、高度な技術が必要とされるため単価が高く、技術を習得すれば独立開業して高収入を得ることも夢ではありません。
清掃業で「良い会社」を見極めるための面接での逆質問
面接は、企業が応募者を選ぶ場であると同時に、応募者が企業を選ぶ場でもあります。

御社で活躍するために、入社前に勉強しておくべきことはありますか?
上記のような前向きな逆質問は、意欲をアピールできるだけでなく、その会社の教育体制や求める人物像を探るリトマス試験紙になります。
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5.「清掃業はもう限界…」と感じている方へ。賢い退職と次の道

もし今、清掃業の現職で辛い思いをしていて「辞めたい」と考えているなら、無理をする必要はありません。逃げることも立派な戦略です。
バックレはNG!円満退職のためのステップと法的権利
どれだけ辛くても、無断欠勤(バックレ)は避けましょう。
懲戒解雇のリスクや、離職票などの書類受け取りでトラブルになる可能性があります。
民法上、正社員など(期間の定めのない雇用)の場合、退職の意思表示は「2週間前」に行えば雇用契約を終了できると定められています。
契約社員やパートなどの「期間の定めのある雇用」の場合は、原則として契約期間中の退職は「やむを得ない事由」が必要となるため、就業規則を確認しましょう(民法第628条)。
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異業種への転職も視野に。「ポータブルスキル」の活かし方
「清掃しかやったことがないから…」と諦めるのは早計です。
清掃業務で培った「段取り力(効率的に作業を進める力)」「継続力(毎日同じ品質を保つ力)」「気配り(利用者の視点に立った作業)」は、どの業界でも通用する「ポータブルスキル」です。
ポータブルスキルとは
職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても応用が利く職務遂行上のスキルのことを指します。
これらの強みを言語化し、製造業や物流、介護、あるいは同業界の上位職種である「設備管理(ビルメン)」など、人手不足で未経験者を歓迎している他業界へキャリアチェンジすることも十分に可能です。
参考:ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)|厚生労働省
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6.清掃業の仕事を正しく理解し、賢く選ぼう
清掃業は、確かに身体的負担や低賃金といった懸念を持つ仕事かもしれません。
しかし一方で、人手不足による入社しやすさ、社会インフラとしての安定性、そして資格や独立によるステップアップの可能性も秘めています。
重要なのは、世間の「清掃業はやめとけ」という無責任な声に流されるのではなく、自分自身の適性と、目指すライフスタイルに合っているかを冷静に見極めることです。