退職を検討する際、あるいは退職が決まった際、当面の生活費に関する懸念が生じることがあります。次のキャリアに向けて十分な準備を行うためにも、経済的な基盤を確保することは重要です。
失業保険(正式名称:雇用保険の基本手当)は、求職者が安心して求職活動を行い、早期に再就職することを支援するための制度です。いわば、再起のための「投資資金」としての側面を持ちます。
この記事では、雇用保険法および厚生労働省のガイドラインに基づき、失業保険の仕組みや受給条件、具体的な手続きの流れについて、専門用語を噛み砕きながら解説します。
制度を正しく理解し、経済的な安心を手に入れることで、納得のいく次のキャリアを見つける一助となれば幸いです。
- 失業保険を受給するための「3つの条件」
- 給付金額の計算方法および給付日数の決まり方(マトリクス表付き)
- 退職前から受給終了までの具体的な「手続きの全ステップ」
1.失業保険(正式名称:雇用保険の基本手当)とは?受給できる3つの条件
離職日以前に一定の
雇用保険加入期間がある
「失業の状態」にあり、
求職申込みをしている
就職する意思と能力があり、
積極的に活動している
失業保険(基本手当)とは、雇用保険の被保険者が離職し、失業の状態にある場合に、再就職までの生活の安定を図り、求職活動を円滑に行えるよう支援するために支給される給付金です。
この制度は、単に「仕事がない期間の生活費」を補填するだけでなく、経済的な不安を軽減することで、求職者が自身の適性や能力に合った職場を慎重に選択できる環境を整えるという重要な目的を持っています。
受給資格を得るためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
1. 離職日以前に一定の雇用保険加入期間がある
原則として、退職日(離職日)から遡った2年間に、雇用保険の被保険者期間が「通算して12ヶ月以上」あることが求められます。
【被保険者期間のカウント方法】
単に在籍していた期間ではなく、離職日から1ヶ月ごとに遡り、「賃金支払基礎日数が11日以上」ある月を「1ヶ月」として計算します。また、日数が11日未満であっても、「賃金支払基礎時間数が80時間以上」ある月は「1ヶ月」として算入されます。
【条件が緩和されるケース】
以下のいずれかに該当する場合(特定受給資格者または特定理由離職者)は、受給要件が緩和され、「離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上」あれば受給が可能となります。
- 特定受給資格者:
倒産、解雇(重責解雇を除く)などにより、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた場合。 - 特定理由離職者:
期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合(雇い止め)や、正当な理由(病気、ケガ、妊娠、出産、育児、介護、配偶者の転勤など)により自己都合退職した場合。
2. 「失業の状態」にあり、ハローワークで求職申込みをしている
雇用保険法において給付の対象となる「失業」とは、単に職に就いていない状態を指すのではなく、以下の要件をすべて満たす状態と定義されています。
- 就職しようとする積極的な意思がある
- いつでも就職できる能力(健康状態・環境)がある
- 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、職業に就くことができない
したがって、以下のようなケースは原則として「失業の状態」とは認められず、給付を受けることができません。
【受給対象外となる主なケース】
- 病気やケガのため、すぐには就職できない(※傷病手当金の対象となる可能性があります)
- 妊娠・出産・育児のため、すぐには就職できない(※受給期間の延長措置が利用可能です)
- 定年退職後、しばらく休養するつもりである
- 結婚して専業主婦(夫)になり、就職するつもりがない
- 学業に専念する(昼間学生など)
- 自営業を開始する、または会社の役員に就任する
- 次の就職先がすでに決まっている
3. 就職する意思と能力があり、積極的に活動している
失業保険を受給するためには、管轄のハローワークで求職申込みを行い、離職票を提出して受給資格の決定を受ける必要があります。
受給資格決定後も、4週間に1度の「失業認定日」にハローワークへ出向き、「失業認定申告書」を提出して、失業の状態にあることの認定を受けなければなりません。この際、単に「仕事が見つからない」と申告するだけでなく、職業相談や求人への応募といった客観的な「求職活動実績」があることが支給の必須条件となります。
参考:厚生労働省|雇用保険手続きのご案内
参考:厚生労働省|離職されたみなさまへ
▼あわせて読みたい
失業保険の手続きと並行して、退職時に必要な届出や引継ぎも確認しておきましょう。こちらの記事では、円満退職から退職後の保険手続きまで網羅的に解説しています。
2.【シミュレーション】失業保険はいくらもらえる?計算方法

受給条件を満たしていることが確認できたら、次に気になるのは「具体的な支給額」です。失業保険の支給額は、退職前の賃金と年齢、そして「所定給付日数」に基づいて算出されます。
計算式:1日あたりの金額と総受給額
失業保険の金額は、以下の2段階の計算式で求められます。
1. 1日あたりの支給額(基本手当日額)
= 賃金日額(退職前6ヶ月の給与合計 ÷ 180) × 給付率(50~80%)
2. 失業保険の総受給額
= 基本手当日額 × 所定給付日数
1日あたりの支給額(基本手当日額)の詳細
ベースとなる「賃金日額」は、退職直前6ヶ月間の賃金(賞与を除く)の合計を180で割った金額です。
これに対し、およそ「50%~80%」の給付率を掛けて「基本手当日額」を算出します。
賃金が低い方ほど給付率は高く(80%寄り)、賃金が高い方ほど低く(50%寄り)設定される仕組みとなっています。
年齢別の給付率と上限額・下限額
基本手当日額には、年齢区分ごとに「上限額」が設けられています。
- 29歳以下:約6,900円程度が上限
- 30歳~44歳:約7,700円程度が上限
- 45歳~59歳:約8,400円程度が上限
- 60歳~64歳:約7,200円程度が上限
※上記金額は概算です。雇用保険の基本手当日額は、毎月勤労統計の平均給与額の変動に応じて、毎年8月1日に改定されます。正確な最新の金額については、厚生労働省の公式資料またはハローワークにてご確認ください。
給付額の計算例
例:30歳、退職前の月給30万円(賞与除く)の場合
- 賃金日額の算出:
30万円 × 6ヶ月 = 180万円
180万円 ÷ 180日 = 10,000円- 基本手当日額の算出:
賃金日額10,000円の場合、給付率は概ね50~60%程度。
(仮に60%とした場合)10,000円 × 0.6 = 6,000円(1日あたり)- 総受給額の算出:
所定給付日数が90日の場合:6,000円 × 90日 = 54万円
3.【重要】いつから・いつまでもらえる?退職理由による違い
失業保険において、「退職理由」は受給開始時期および給付日数に大きく影響します。退職理由が「会社都合」か「自己都合」かによって、条件が異なります。
「会社都合退職」と「自己都合退職」の違い
1. 退職理由による違い
倒産・解雇など、会社の事情で辞めることになった場合。
すぐに受給が始まります。
転職や一身上の都合など、自分の意思で辞めた場合。
給付制限期間(2〜3ヶ月)があります。
会社都合退職(特定受給資格者):
倒産、解雇、事業所移転による通勤困難など、企業の事情等により離職を余儀なくされた場合。
→ 待期期間(7日間)経過後、速やかに受給が開始されます。
自己都合退職(一般の離職者):
転職やキャリアアップなど、自身の意思で退職した場合。
→ 待期期間終了後、さらに「給付制限」期間を経過するまで支給されません。
給付金が振り込まれるまでの期間(待期期間と給付制限)
2. 給付金が振り込まれるまでの流れ
- 待期期間(全員共通):
求職申込みをした日から通算して「7日間」は、離職理由にかかわらず支給されません。 - 給付制限(自己都合退職の場合):
待期期間満了後、原則として2ヶ月間の給付制限期間があります。
※ただし、5年間のうちに2回以上の自己都合退職がある場合などは、給付制限期間が3ヶ月間となることがあります。
給付金をもらえる期間(所定給付日数)の決まり方
3. もらえる日数の決まり方
年齢は関係なく、
被保険者期間(働いた期間)
のみで日数が決まります。
年齢 と 被保険者期間
の両方で細かく決まります。
自己都合より手厚い傾向です。
所定給付日数は、退職理由、年齢、および雇用保険の被保険者期間によって決定されます。
1. 自己都合退職の場合(一般の離職者)
自己都合退職の場合、年齢による区別はなく、被保険者期間のみで日数が決定します。
| 被保険者期間 | 所定給付日数 |
|---|---|
| 10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
2. 会社都合退職の場合(特定受給資格者・一部の特定理由離職者)
会社都合退職等の場合は、以下の表の通り、年齢と被保険者期間に応じて給付日数が細かく設定されており、自己都合退職よりも手厚くなる傾向があります。
| 年齢 \ 被保険者期間 | 1年未満 | 1年~4年 | 5年~9年 | 10年~19年 | 20年以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | – |
| 30歳~34歳 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 35歳~44歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
| 45歳~59歳 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
| 60歳~64歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
▼あわせて読みたい
退職のタイミングは失業保険の受給条件にも影響します。円満退職と経済面の両立を目指す方は、こちらの記事で辞め時の判断基準もあわせてご確認ください。
4.退職前から受給までの完全手続きガイド

失業保険を受給するためには、管轄のハローワークにて所定の手続きを行う必要があります。主な流れは以下の4ステップです。
ステップ1:退職前に会社から受け取る書類(離職票など)
退職にあたり、会社から「離職票」の発行を受ける必要があります。
通常、退職日の翌日から10日程度で作成され、その後自宅へ郵送されます。
【会社から受け取る主な書類】
- 雇用保険被保険者離職票(-1、-2)
- 雇用保険被保険者証
ステップ2:ハローワークでの求職申込み・受給資格決定
離職票が届いたら、住所地を管轄するハローワークへ行きます。
この際、事前に自宅で「求職情報のオンライン登録」を済ませておくとスムーズです。
【手続きに必要なもの】
- 雇用保険被保険者離職票(-1、-2)
- マイナンバー確認書類および身元確認書類
以下の(A)または(B)のいずれかの組み合わせが必要です。- (A) マイナンバーカード(これ1枚で番号確認と身元確認が可能)
- (B) 番号確認書類 + 身元確認書類
- 番号確認書類:通知カード、または個人番号(マイナンバー)の記載がある住民票の写し
- 身元確認書類:運転免許証、運転経歴証明書、パスポート、障害者手帳など(官公署発行の顔写真付きのもの)。
※顔写真付きの証明書がない場合は、健康保険証、年金手帳(基礎年金番号通知書)、児童扶養手当証書などから異なる2点が必要です。
- 証明写真(縦3cm×横2.5cm)2枚
※マイナンバーカードによる手続き等で写真が不要となる場合がありますが、念のため持参することを推奨します。 - 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
- 印鑑(認印・スタンプ印不可)
※訂正が必要な場合に備えて持参します。
ステップ3:雇用保険説明会と初回の失業認定日
受給資格決定後、指定された日時に「雇用保険受給者初回説明会」に参加します。
これは、失業保険の仕組みや注意事項、今後のスケジュールについて理解するための重要な手続きです。
【説明会の主な内容】
- 失業保険制度に関するビデオ視聴および職員による説明
- 「雇用保険受給資格者証」(または受給資格通知)の交付
※受給期間中の身分証明書となる最重要書類です。認定日には毎回持参する必要があります。 - 「失業認定申告書」の交付と書き方の指導
- 第1回目の「失業認定日」の正式な日時指定
【初回の失業認定日について】
説明会から約1~3週間後に、第1回目の「失業認定日」が設定されます。
認定日は日付だけでなく「時間」まで指定されることが一般的です。やむを得ない理由(病気、面接、親族の忌引など)がある場合を除き、日時変更は原則として認められないため、最優先でスケジュールを確保する必要があります。
ステップ4:求職活動実績の作り方と報告
失業保険を受給し続けるためには、原則として4週間に1回設定される「失業認定日」にハローワークへ出向き、「失業の状態」にあることの確認(認定)を受ける必要があります。
認定を受けるためには、前回の認定日から今回の認定日の前日までの間に、原則として2回以上の「求職活動実績」を作ることが必須条件となります。
1. 失業認定日の流れ
指定された日時にハローワークへ行き、職員に「失業認定申告書」と「雇用保険受給資格者証」を提出します。
申告書には、対象期間中の就労・内職の有無や、行った求職活動の内容(日付、場所、内容)を正確に記入します。
2. 「求職活動実績」として認められるもの・認められないもの
ただ単に仕事を探す意思があるだけでは実績とはみなされません。客観的に確認できる活動が必要です。
| 実績として認められる活動(〇) | 実績として認められない活動(×) |
|---|---|
| ・求人への応募(Web応募、電話応募含む) ・ハローワーク窓口での職業相談、職業紹介 ・転職エージェント等との面談・相談 ・ハローワークや公的機関、転職サイト等が主催するセミナー受講 ・国家試験や検定試験の受験(再就職に資するもの) ・雇用保険受給者初回説明会への参加(※1回分の実績としてカウントされる) | ・インターネットや情報誌での求人閲覧・検索のみ ・転職サイトや人材紹介会社への登録のみ ・知人への「仕事はないか」等の問い合わせのみ ・ハローワークに行っただけで相談をしなかった場合 |
3. 実績回数の特例
原則は「2回以上」ですが、以下のケースでは回数が緩和されることがあります。
初回認定日までの期間:
「雇用保険受給者初回説明会」への参加が1回分の実績となるため、説明会に参加していれば、追加で1回の活動(または活動不要の場合もあり)で認定を受けられるケースが一般的です。
求人への応募・面接を行った場合:
1回の応募から面接、合否連絡までの一連の流れは、複数回の活動としてではなく、応募した時点で「1回」の実績となります。ただし、面接を受けたこと自体も活動実績として申告可能です。
▼あわせて読みたい
5.失業保険に関するよくある質問

受給手続きを進める中で、個別の状況に応じた疑問や不安が生じることが少なくありません。ここでは、ハローワークの窓口や専門家への相談で頻繁に挙げられる、就労(アルバイト)、扶養、早期再就職に関する代表的な質問について解説します。
-
受給中にアルバイトをしても問題ないか?
-
可能です。ただし、必ずハローワークに申告する必要があります。
1日の労働時間が4時間未満の場合は、その日の分の給付が減額または不支給となることがあります。4時間以上の場合は、その日の給付は「先送り(支給繰り延べ)」として処理されます。申告を行わずに就労し、給付を受けた場合は「不正受給」となり、受給額の返還に加え、さらに2倍の額の納付(いわゆる3倍返し)を命じられる等の厳しい処分が科されるため、正確な申告が不可欠です。
-
扶養に入ったままでも失業保険は受給できるか?
-
基本手当日額が「3,612円」(60歳以上は5,000円)以上の場合、健康保険や国民年金の扶養範囲を超えるとみなされることが一般的です。
失業保険は「収入」として扱われるため、受給期間中はご自身で国民健康保険や国民年金に加入する手続きが必要となるケースが大半です。
-
早く再就職が決まった場合、残りの手当はどうなるか?
-
所定給付日数を一定以上残して再就職が決まった場合、「再就職手当」を受給できる可能性があります。
所定給付日数の3分の1以上(かつ45日以上)を残して就職するなど、一定の要件を満たすことで、残日数の60%または70%相当額が一時金として支給されます。早期の再就職が不利にならないよう設計されています。
6.制度を賢く活用して、焦らず次のキャリアへ
本記事では、失業保険(基本手当)の受給条件や手続きについて解説しました。
受給にあたっては、「加入期間」「失業の状態」「求職活動」の3要件が必須です。支給額は退職前賃金の約50~80%となりますが、退職理由によって条件が大きく異なります。自己都合退職の場合は原則2ヶ月の給付制限期間が発生する一方、会社都合退職の場合は給付日数が手厚く設定されている点に留意してください。
失業期間は、これまでの働き方を振り返り、今後のキャリアプランを再構築する機会でもあります。
制度を適切に活用し、本記事の情報が、納得のいく次のキャリアを見つける一助となれば幸いです。