退職を検討する際、あるいは実際に退職が決まった後、当面の生活費について不安を感じることは決して珍しいことではありません。新しいキャリアへ向けて落ち着いて準備を進めるためには、経済的な安心感が土台となります。その心強い味方となるのが、雇用保険制度における「基本手当(いわゆる失業保険)」です。
しかし、「実際にはいくらもらえるのか」「いつもらえるのか」といった具体的な数字やスケジュールは、一人ひとりの状況によって異なります。複雑に見える制度ですが、ポイントを押さえれば自身のケースに当てはめて予測を立てることが可能です。
この記事では、失業保険が具体的にいくらもらえるのか、その計算方法やシミュレーション、そして知っておくべき注意点について、雇用保険制度の仕組みに基づき分かりやすく解説します。
- 失業保険の受給額が決まる4つの要素と具体的な計算ステップ
- 年齢や退職理由(自己都合・会社都合)別の受給額シミュレーション
- 失業保険を受給する際の注意点と、2025年4月の法改正に関する最新情報
1.失業保険(基本手当)の受給額を左右する4つの要素
退職時の年齢
再就職の難易度や
給付日数に影響
直近6ヶ月の賃金
手当や残業代を含む
額面金額がベース
保険加入期間
長く働いた人ほど
受給期間も長くなる
退職理由
「自己都合」か
「会社都合」かを確認
失業保険の金額は、全員一律に決まっているわけではありません。主に以下の4つの要素が組み合わさることで、最終的な受給額と受け取れる日数が決定されます。まずは、現在の状況を以下の4項目に当てはめて整理してみましょう。
1. 退職時の「年齢」
失業保険の計算において、退職した日の年齢は非常に重要な要素です。法律により、退職時の年齢層ごとに1日あたりにもらえる金額(基本手当日額)の上限が定められています。
- 29歳以下・60~64歳: 上限額が比較的低めに設定されています。
- 30~44歳: ライフスタイルの変化により生活費のベースが上がり始める時期として、2番目に高い上限額が設定されています。
- 45~59歳: 住宅ローンや教育費など、生活費の負担がピークに達しやすい世代として、全年齢区分の中で最も高い上限額が設定されています。
2. 直近6ヶ月間の「賃金総額」
退職する直前の6ヶ月間に支払われた給与の総額が計算のベースとなります。ここでの重要なポイントは、手取り額ではなく「額面の総額」を用いる点です。
- 計算に含まれるもの:
基本給、残業代(時間外手当)、役職手当、家族手当、通勤手当など、毎月決まって支払われる賃金 - 計算に含まれないもの:
ボーナス(賞与)、退職金、結婚手当や見舞金などの臨時に支払われる賃金
参考:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス|基本手当について
3. 雇用保険の「加入期間(勤続年数)」
これまでに雇用保険に加入していた通算期間が長いほど、失業保険を受け取れる日数(所定給付日数)が長くなる仕組みです。
1つの会社での勤続年数だけでなく、過去に転職を経験している場合でも、以下の条件をすべて満たせば前職での加入期間も「通算」して計算されます。
- 前職の退職から次の就職までの空白期間が「1年以内」であること
- その空白期間に失業保険(基本手当)や再就職手当の支給を受けていないこと
参考:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス|基本手当の所定給付日数
4. 「退職理由(自己都合・会社都合)」
退職理由によって、失業保険を受け取れる日数と、支給が開始されるタイミングが大きく変わります。大きく以下の3つに分類されます。
- 自己都合退職(一般の離職者):
キャリアアップや不満などを理由とした退職。給付日数は加入期間に応じて90日~150日となります。 - 会社都合退職(特定受給資格者等):
倒産や解雇、著しい業績悪化など会社側の理由による退職。予期せぬ離職に対する保護として、給付日数は90日~最大330日と手厚く設定されています。 - やむを得ない事情による退職(特定理由離職者):
病気、ケガ、妊娠・出産、家族の介護、配偶者の転勤への同行などによる退職。要件を満たせば、自己都合退職であっても会社都合と同等の手厚い保護を受けられるケースがあります。
参考:厚生労働省 ハローワークインターネットサービス|特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
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2.失業保険がいくらもらえるか計算する4つのステップ

4つの要素を把握したところで、実際に失業保険の総額がどのように計算されるのかを4つのステップで解説します。順を追って計算していくことで、おおよその受給目安を算出できます。
ステップ1:退職前6ヶ月間の「賃金日額」を算出する
まずは、1日あたりの給与額にあたる「賃金日額」を求めます。
退職直前の6ヶ月間に支払われた給与の総額(賞与や退職金を除く、額面の総額)を、180(6ヶ月分の日数)で割って算出します。
【計算式】 退職前6ヶ月間の給与総額 ÷ 180 = 賃金日額
※給与は「退職前の直近6ヶ月間」が対象ですが、欠勤などで給与が支払われなかった日が多い月は計算期間から除外され、さらに過去の月へ遡って計算される特例措置もあります。
ステップ2:年齢ごとの「上限額・下限額」と照合する
ステップ1で算出した「賃金日額」には、退職時の年齢区分(29歳以下、30~44歳、45~59歳、60~64歳)ごとに上限額と下限額が設定されています。これらの基準額は、毎月勤労統計調査に基づき毎年8月1日に改定されます。
- 下限を下回る場合: 計算結果が下限額未満であっても、一律で下限額が適用されます。
- 上限を上回る場合: どんなに元の給与が高くても、年齢区分ごとの上限額に切り下げられます。
ステップ3:賃金に応じた「給付率」を適用する
次に、失業保険として実際に1日あたりに受け取れる金額である「基本手当日額」を算出します。
ステップ2で確定した賃金日額に、給付率(およそ50%~80%)を掛け合わせます。
- 元の賃金が低い場合: 給付率が高く(最大80%)設定されます。
- 元の賃金が高い場合: 給付率が低く(最低50%)設定されます。
この傾斜配分により、離職前の所得水準にかかわらず、退職後の最低限の生活安定が図られる仕組みとなっています。
ステップ4:離職理由に基づき「所定給付日数」を掛ける
1日あたりの金額(基本手当日額)が決まったら、退職理由と雇用保険の加入期間に基づいて「何日分もらえるのか(所定給付日数)」を確認し、掛け合わせます。
【計算式】 基本手当日額 × 所定給付日数 = 支給総額(受給できる上限額)
※自己都合退職の場合は雇用保険の「加入期間」のみで日数が決まりますが、会社都合退職の場合は「退職時の年齢」も考慮され、より細かく日数が割り振られます。
参考:厚生労働省|Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)
3.【年齢・退職理由別】失業保険受給額のシミュレーション

計算式だけではイメージしづらいため、よくある3つのケースで具体的なシミュレーションを行ってみましょう。
(※金額はあくまで目安であり、実際の受給額はハローワークでの決定に基づきます)
20代後半・自己都合退職のシミュレーション例
・年齢:28歳
・退職前6ヶ月の平均月給:25万円(給与総額150万円)
・雇用保険加入期間:4年
・退職理由:自己都合退職
この場合、賃金日額は約8,333円となります。給付率を適用した基本手当日額は約5,600円程度と推測されます。
自己都合退職で加入期間1年以上10年未満のため、給付日数は90日となります。
【受給総額の目安】 5,600円 × 90日 = 約504,000円
30代前半・会社都合退職のシミュレーション例
・年齢:32歳
・退職前6ヶ月の平均月給:30万円(給与総額180万円)
・雇用保険加入期間:8年
・退職理由:会社都合退職(業績悪化など)
この場合、賃金日額はちょうど10,000円です。基本手当日額は約6,000円程度になります。
会社都合退職で年齢30歳以上35歳未満、加入期間5年以上10年未満に該当するため、給付日数は手厚く「180日」となります。
【受給総額の目安】 6,000円 × 180日 = 約1,080,000円
40代半ば・自己都合退職のシミュレーション例
・年齢:45歳
・退職前6ヶ月の平均月給:40万円(給与総額240万円)
・雇用保険加入期間:20年
・退職理由:自己都合退職(キャリアアップのための転職など)
賃金日額は約13,333円です。45~59歳の上限額等を考慮し、基本手当日額は約6,600円程度と推測されます。
自己都合退職で加入期間が20年以上あるため、給付日数は最大の「150日」となります。
【受給総額の目安】 6,600円 × 150日 = 約990,000円
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4.失業保険はいつからもらえる?退職理由別のスケジュールと最新ルール
早期受給モデル(約1ヶ月後〜)
手続き
待期期間
(7日間)
支給開始
通常受給モデル(約2ヶ月後〜)
手続き
待期期間
給付制限
原則1ヶ月
支給開始
リスキリング等の受講で給付制限が免除される特例あり
振込まで時間がかかるため、2〜3ヶ月分の生活費を確保しておきましょう。
いくらもらえるのかと同じくらい重要なのが、「いつから手元にお金が入るのか」というスケジュールです。失業保険は、ハローワークで手続きをしたからといってその日にすぐもらえるわけではありません。ここでは、退職理由によるスケジュールの違いと、現在の最新ルールについて解説します。
会社都合退職(特定受給資格者等)の場合のスケジュール
会社都合で退職した場合、比較的早い段階で給付を受け取ることができます。手続きから初回の振り込みまでの目安は約1ヶ月です。
- 待期期間(7日間):
ハローワークで求職の申し込みをした日から通算して7日間は、退職理由にかかわらず全員共通で設けられている「失業状態を確認するための期間」です。この期間は失業保険は支給されません。 - 支給開始:
待期期間満了の翌日から、すぐに支給の対象となります。 - 初回振り込み:
手続きから約4週間後に設定される「第1回失業認定日」で失業状態が確認されると、その数日後(通常は1週間以内)に指定した金融機関の口座へまとまった金額が振り込まれます。
自己都合退職(一般の離職者)の場合のスケジュールと現在の給付制限期間
自身の都合で退職した場合、7日間の待期期間に加えて「給付制限期間」が設けられるため、初回の振り込みまでの目安は約2ヶ月となります。
- 給付制限期間(原則1ヶ月):
以前は自己都合退職の場合、原則2ヶ月間の給付制限がありましたが、2025年(令和7年)4月の雇用保険法改正が施行されたことにより、現在の給付制限期間は原則として「1ヶ月」に短縮されています。 - 給付制限の免除特例:
退職後、自発的にリスキリング(教育訓練等)に取り組むなどの一定要件を満たした場合は、この1ヶ月の給付制限が「免除」され、会社都合退職と同じスケジュールで受給できる特例も設けられています。 - 初回振り込み:
待期期間(7日間)+給付制限期間(1ヶ月)が経過した後に支給対象となります。その後の失業認定日を経て振り込まれるため、実際に口座にお金が入るまでには、ハローワークでの最初の手続きから約1ヶ月半〜2ヶ月程度の時間を要します。
給付制限が短縮されたとはいえ、何の準備もなく自己都合で退職すると、当面の生活費が不足するリスクは依然として存在します。退職前に、少なくとも2ヶ月から3ヶ月程度の生活費を貯蓄として確保しておくことが極めて重要です。
参考:厚生労働省|雇用保険の具体的な手続き
参考:厚生労働省|令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について
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給付制限期間中は、次の転職に向けた準備期間にもなります。こちらの記事で、退職・転職のベストタイミングと円満退職の進め方を事前に把握し、焦らない活動計画を立てましょう。
5.失業保険を受給する際の注意点・よくある疑問
制度を活用する上で、トラブルを防ぎ、権利を最大限に活かすための重要な注意点を整理しておきましょう。
ボーナス(賞与)や退職金は計算に含まれるか?
計算に含まれる賃金の対象
○ 対象
基本給・残業代
通勤手当など
× 対象外
ボーナス
退職金など
失業保険は「毎月の決まった収入」から計算されます。臨時の収入は考慮されません。
失業保険の金額を計算する際、退職前6ヶ月間の「賃金総額」には、臨時に支払われる賃金は含まれません。
- 計算に含まれないもの: ボーナス(賞与)、退職金、結婚祝金や見舞金など
- 計算に含まれるもの: 基本給に加え、残業代(時間外手当)、役職手当、家族手当、通勤手当などの「毎月決まって支払われるもの」
失業保険の計算ベースとなる賃金日額は、あくまで「毎月の経常的な収入」を基準に算出される仕組みとなっています。
参考:厚生労働省|ハローワークインターネットサービス 基本手当について
受給期間中にアルバイトをした場合の減額ルール
受給中のアルバイトの境界線
減額または支給
収入額に応じて計算
支給を先送り
後日へ繰り越し
申告漏れは「3倍返し」の罰則!
失業保険を受給している期間中、求職活動をしながら生活費の足しとしてアルバイトやパートをすること自体は禁止されていません。ただし、労働時間や収入額に応じて以下のルールが適用されます。
- 1日4時間未満働いた場合:
「内職・手伝い」とみなされ、収入額に応じてその日の失業保険が「減額」される、あるいは全額支給される場合があります。 - 1日4時間以上働いた場合:
「就労」とみなされ、その日の失業保険は支給されず、後日に「先送り(繰り越し)」となります。
病気や妊娠・出産ですぐに働けない場合の延長手続き
働けない期間の受給延長
通常の期限
延長後の期限
手続きにより、働ける状態になるまで
受給の権利をストックしておけます。
失業保険を受け取るためには、「いつでも働ける状態にあり、積極的に求職活動をしていること」が大前提となります。したがって、退職後に病気やケガ、妊娠、出産、育児、親の介護などの理由ですぐに働けない場合は、原則としてその期間は支給対象外となります。
しかし、このような場合でも受給の権利が完全に消滅するわけではありません。
- 受給期間の延長手続き:
ハローワークで所定の手続きを行うことで、本来「退職日の翌日から1年間」である受給期間を、働けない日数分だけ延長し、「最大4年間」まで引き延ばすことができます。
働ける状態に回復してから、安心して受給と求職活動を再開できる重要なセーフティネットです。手続きには期限(引き続き30日以上働けなくなった日の翌日から早期の申請が推奨されます)や医師の診断書等が必要になる場合があるため、該当する場合は早めにハローワークへ相談することが重要です。
早く再就職が決まった場合の「再就職手当」について
早く決まるとおトクな「再就職手当」
残日数 2/3以上
残日数 1/3以上
再就職が早いほど
支給率アップ!
残りの日数を「もらい損ねる」心配はありません。
早期決着で一括ボーナスを受け取れます。
失業保険を全額受け取る前に、早期に再就職が決まった場合、「もらい損ねてしまうのではないか」と考える必要はありません。一定の要件を満たして早期に安定した職業に就いた場合、残りの給付日数に応じたまとまった金額が「再就職手当」として支給されます。
- 所定給付日数を「3分の2以上」残して再就職:
残日数の基本手当総額の「70%」が一括支給されます。 - 所定給付日数を「3分の1以上」残して再就職:
残日数の基本手当総額の「60%」が一括支給されます。
再就職が早いほど手当の支給率が高くなる仕組みになっており、キャリア再開の大きなインセンティブとなります。失業保険を上限まで長く受け取るよりも、再就職手当を受け取りながら新しい職場で給与を得る方が、生涯賃金やブランクを防ぐ観点では有利になるケースが多く見られます。
参考:厚生労働省|雇用保険受給資格者のみなさまへ 再就職手当のご案内
6.制度を正しく理解し、焦りのない転職活動を
失業保険の具体的な受給額とスケジュールを正確に把握することは、単なるお金の計算にとどまりません。退職後の経済的な不安を取り除き、自身のキャリアにとって最適な次の一手を冷静に選択するための重要な基盤となります。
制度の複雑さゆえに、不正受給のリスクを恐れすぎたり、給付制限期間中の資金計画を見誤ったりしてしまうケースも見受けられます。まずは自身の「年齢」「退職直前の給与」「雇用保険の加入期間」「退職理由」を確認し、おおよその受給額と時期をシミュレーションしてみてください。
制度を正当な権利として正しく活用することは、心身の健康を保ちながら、納得のいく転職活動を進めるための確かな一歩となります。