就職・転職活動でAIを活用することは、もはや珍しくありません。大手求人サイト「マイナビ」の調査では、2026年卒予定の学生の66.6%が就職活動でAIを利用していると回答しています。
特に志望動機の作成や添削は、AIの活用が目立つ分野です。
しかし同時に、「AIが書いた志望動機は、採用担当者にバレるのではないか?」「熱意がないと判断され、かえって不利になるのでは?」といった不安の声も多く聞かれます。
この記事では、AIの出力をそのまま使うリスクと、AIを「思考を深めるアシスタント」として賢く活用するための具体的なステップを解説します。
- 志望動機のAI添削が「バレる」とされる理由と採用担当者の視点
- AIを「たたき台」として思考を深める具体的な3ステップ
- 無料AI添削ツールやChatGPTで使える具体的なプロンプト例
1.志望動機のAI添削はバレる?就活生の利用実態と採用担当の視点

結論から言えば、AIが生成した文章をそのまま(コピペして)提出した場合、採用担当者に見抜かれる可能性は高いです。
前述の通り、就活生の3分の2がAIを利用しています。そのため、採用担当者もAIが生成する文章の特徴を認識している可能性があります。
参考|株式会社マイナビ:2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動におけるAI利用>
採用担当者がAI作成を見抜くポイント
採用担当者は、志望動機から「なぜ他社ではなく、自社なのか」「入社後にどう貢献してくれそうか」という具体的な熱意と論理を知りたいと考えています。
AIが生成した文章は、以下のような特徴が出やすいため、「バレる」原因となります。
AIが生成した文章の特徴
- 抽象的で具体性がない:「貴社の企業理念に共感し」といった一般的な表現が多く、個人の具体的な体験談やエピソードが欠けている。
- 熱意や人柄が感じられない:文章は整っているものの、その人ならではの「言葉の熱」や個性が感じられない 。
- 焦点が定まっていない:企業研究が浅いまま生成すると、企業の求める人物像と応募者の強みがズレた内容になりやすい。

インターネット上の一般的な情報を基にAIは、文章を生成します。
そのため、個人の深い自己分析や、その企業「だけ」に向けた特別な動機をゼロから生み出すことは苦手なのです。
2.AI添削のメリットと「そのまま提出」のデメリット

AIの利用を「バレるか否か」だけで判断してはいけません。AIには明確なメリットと、使い方を誤った場合のデメリットがあります。
メリット:時間短縮、客観的な視点、文章構成の学習
AIを活用する最大のメリットは、効率化と客観性の獲得です。
AIを活用するメリット
- 時間短縮:文章の「たたき台」を素早く作成し、文章を整える時間を短縮できます。
- 客観的な視点:自分の文章をAIに添削させることで、文法的な誤りや、より伝わりやすい表現のヒントを得られます。
- 構成の学習:「結論ファースト」やPREP法など、分かりやすい文章構成の型を学ぶための教材としても使えます。
デメリット:個性の欠如、体験の具体性のなさ、情報漏洩リスク、コピペや盗用と疑われるリスク
一方で、AIの出力を鵜呑みにすると、大きなデメリットが生じます。
AIを活用するデメリット
- 個性の欠如:AIに頼りすぎると、誰が書いても同じような、個性のない志望動機になりがちです 。
- 具体性のなさ:AIは応募者自身の「具体的な体験談」を提供できません。
- 情報漏洩リスク:無料のAIサービスに、氏名や住所、応募先企業の機密情報などを入力すると、意図せず外部に漏洩するリスクがあります。
- コピペや盗用と疑われるリスク:AIに生成された文章が既存の他人の志望動機と似てしまうことがあります。そのまま使うと、意図せず「盗用(パクリ)」や「著作権侵害」と判断されるリスクがあります。
3.【重要】AIを「思考の壁打ち相手」として活用する3ステップ
「自己分析」と「企業研究」を終える
AIに「たたき台」を作成させる
「具体的な体験談」で修正・加筆する
AI添削の不安を解消する重要な鍵は、AIを「文章の代行者」ではなく、「思考を整理するためのアシスタント」として位置づけることです 。
自身の価値観や強みを言語化するプロセスは不可欠です。AIをその「壁打ち相手」として活用する、賢い3ステップを紹介します。
STEP1:AI利用の前に「自己分析」と「企業研究」を終える
AIに「良い文章」を作らせるには、まず「良い材料」が必要です。AIに触る前に、以下の準備を済ませてください。
- 自己分析(キャリアの棚卸し):これまでの経験を時系列で書き出します(キャリアの棚卸し)。その経験を「Will-Can-Must」(やりたい事・できる事・求められる事)のフレームワークで整理します。
- 企業研究: その企業が「今、何を課題としているか」「どのような人材を求めているか」を徹底的に調べます。
STEP2:具体的なプロンプトでAIに「たたき台」を作成させる
STEP1の「材料」が揃ったら、初めてAIを使います。AIには、その材料をインプットし、「たたき台」となる文章の作成を依頼します。
(具体的なプロンプト例は次章で解説します)
STEP3:AIの出力を「自分の言葉」と「具体的な体験談」で修正・加筆する
AIが生成した「たたき台」は、まだ完成品ではありません。ここからが最も重要な作業です。
- 「自分の言葉」で書き換える:AIが作った流暢な文章を、あえて自分らしい、少し不器用でも熱意の伝わる言葉に置き換えます。
- 「具体的な体験談」を肉付けする:STARメソッド(Situation: 状況, Task: 課題, Action: 行動, Result: 結果)を参考に…STEP1で見つけたエピソードを具体的に加筆します。「なぜそう感じたのか」「どのように困難を乗り越えたのか」というプロセスを盛り込むことで、文章に血が通います。

このプロセスを経ることで、志望動機は「AIが書いた文章」から「AIの助けを借りて、自分が深く考え抜いた文章」へと変わります。
4.【コピペ可】ChatGPT用:志望動機 作成・添削プロンプト例
AI(ChatGPTなど)に「たたき台」の作成や添削を依頼する際は、STEP1で準備した情報を「プロンプト(指示文)」として具体的に与えることが重要です。
志望動機を「作成」してもらうプロンプト例
(例:自己分析と企業情報をインプットする)
以下の条件に基づき、志望動機の「たたき台」を作成してください。 # 応募者の情報 ・強み:Will-Can-Mustに基づく自己分析結果(例:計画立案力、粘り強さ)・具体的なエピソード(STARメソッドで):(例:大学時代のサークル活動で、課題解決のために〇〇を企画し、〇〇という結果を出した) # 応募企業の情報 ・企業名:〇〇株式会社 ・業界:〇〇業界 ・求める人物像:(例:主体的に行動できる人) ・企業の最近の動向:(例:〇〇という新規事業に力を入れている) # 指示 ・文字数:400文字程度 ・文章のトーン:誠実で、熱意が伝わるように
既存の志望動機を「添削」してもらうプロンプト例
例:客観的な視点で評価してもらう
以下の志望動機を、採用担当者の視点で添削してください。 特に、「抽象的で分かりにくい部分」と「より熱意が伝わる表現」について、具体的な改善案を3点挙げてください。 # 添削対象の志望動機 (ここに自分の書いた志望動機を貼り付ける)
より深く「自己分析」を手伝ってもらうプロンプト例
例:キャリアの棚卸しを手伝う
私は今、自己分析をしています。以下の私の経験談から、キャリアコンサルタントのように「強み」や「ポータブルスキル」と言える点を抽出し、言語化するのを手伝ってください。 # 経験談 (例:アルバイトでのリーダー経験、困難だったプロジェクトの経験など)
5.【無料・登録不要】おすすめAI志望動機添削・作成ツール比較
自分でうまく志望動機が作れない/もっと効率的に良い志望動機が作りたい/自分で作った志望動機をチェックしてもらいたい…そんなときにおすすめのツールを4つ紹介します。ChatGPTなどの汎用AIのほか、就職活動に特化したAIツールも登場しており、上手に活用すると効率的に応募書類の作成が可能になります。
1.就活AI by ジェイック

就活AIとは、就職支援会社のジェイックが提供する個人情報の登録不要・無料の就活支援ツールです。
志望動機や自己PRの作成・添削に特化しており、登録不要でブラウザからすぐ利用できる手軽さが特徴です。逆質問の作成や、面接練習アプリなどもあり、書類選考に通ったあとの面接対策にも活用できます。
2.CanvaのAI機能

デザインツールであるCanvaに搭載されたAI機能でも、履歴書テンプレートの上で志望動機を作成・要約する機能が使えます。履歴書や職務経歴書を実際に作りながら、上手く書けないところだけ部分的にAIに作ってもらうことが可能で、効率的に作業が進みます。
3.ChatGPT / Geminiなどの汎用AI


ChatGPTやGeminiなどの汎用AIを使うことで、自己分析や志望動機、職務経歴書などあらゆる転職書類の準備が可能です。汎用AIの場合は、その汎用性の高さから、プロンプト次第で文章の作成、添削、自己分析の壁打ちまでさまざまな活用方法が期待できます。
一方で、就活特有のニュアンスを理解させるには指示(プロンプト)に工夫が必要です。どんな内容を出力してほしいか?という役目を明確にするとともに、どんな企業(職種)を志望しているかなど、AIが考えるための材料を与えることで、より質の高い文章が出来上がります。
4.内定くんAI

内定くんAIは、株式会社Lognessが提供するLINEで使えるAIツールです。ES作成や面接練習など、幅広い機能を提供しており、スマートフォンで手軽に利用できます。2023年のサービスリリース以降、登録数を順調に伸ばし、毎年10万人以上の就活生が利用しています。
▼あわせて読みたい
AIによる志望動機作成ツールは、この他にもいっぱい。こちらの記事ではAIを活用して、あなたの思いを効果的な言葉にするサポートツールを10つまとめて紹介します。ご参照ください。
6.AI利用の際に注意すべき点(個人情報・倫理)

AIはとても便利ですが、賢く活用するためには、守るべき注意点もあります。
個人情報や企業の機密情報を入力しない(データ最小化の原則)
AIに入力した情報は、AIの学習に使われる可能性があります。
氏名、住所、電話番号、メールアドレスといった個人情報は絶対に入力しないでください。また、応募先企業から得た未公開の機密情報なども入力してはいけません。
AIの学習に使わせない方法としては、個人情報や機密情報を伏せ字にしたり、具体的な固有名詞を一般的な表現に置き換えたりすることが有効です。例えば、「〇〇株式会社」と伏せ字にしたり、「大手IT企業」などと抽象化したりすることで、個人や企業が特定されるリスクを減らせます。
AIを利用する際は常に「データ最小化の原則」を意識し、AIに学習させる情報は必要最小限に留めることが重要です。自分の個人情報はもちろん、他者のプライバシーにも配慮しながら、賢くAIを活用するのがおすすめです。
AIの利用に関する政府のガイドラインおよび応募企業の規定について
AIの急速な普及に伴い、政府(総務省・経済産業省)もAIの安全な利用に関するガイドラインを策定しています。これらのガイドラインでは、AI利用者が情報の正確性や倫理的な問題に注意を払うことの重要性が示されています。
また、政府のガイドラインに加え、応募先の企業が選考プロセスにおけるAI利用を禁止していないか、募集要項を確認することも重要です。
AIの出力を鵜呑みにせず、最終的な責任は自分自身にあることを理解しておく必要があります。
参考|経済産業省:「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめました
7.AIは「代行者」ではなく「アシスタント」

志望動機のAI添削は、「バレるか否か」を心配するものではありません。「いかに自分の思考を深めるために使いこなすか」が問われるツールです。
AIは、文章作成をすべて「代行」してくれる便利な道具ではありません。あくまで、自己分析や経験の構造化を助け、客観的な視点をくれる「アシスタント」です 。
AIにたたき台を作らせた後、そこに自分の言葉と具体的な体験談をどれだけ込められるか。そのプロセスこそが、採用担当者の心を動かす、本物の志望動機を完成させる鍵となります。
▼あわせて読みたい
志望動機とともに求職者の悩みで多いのが、「自己PRの作り方」です。こちらの記事では、採用担当者の心をつかむ自己PRの構成方法を、4つのステップで分かりやすく解説しています。