就職・転職活動において、多くの求職者が最初に直面する壁が「自己PRがない」「書くことがない」という悩みです。
「全国大会で優勝した」「売上を200%アップさせた」
このような華々しい実績がないと、評価されないのではないか。そう不安に感じる人は、少なくありません。
求職者の大半は自信がない状態で活動しており、自己PRの作成に困難を感じているのが現状です。
しかし、自己PRに特別な実績は必ずしも必要ありません。
なぜなら、企業が採用活動で本当に知りたいのは過去の栄光ではなく、入社後の業務における再現性だからです。
この記事では、一見「普通」に見える経験を、企業が求める「強み」へと変換(リフレーミング)する方法を解説します。
- 自己PRがないと感じる心理的背景と、企業視点のズレ
- 特別な実績がなくても、日常の行動特性を強みに変える具体的な方法
- 状況別(新卒・未経験・バックオフィス)の自己PRテンプレート
1.なぜ「自己PRできることなんて、ない!」と思い込んでしまうのか

「自分にはアピールできるような強みなんてない」
このように考え、エントリーシートの前で手が止まってしまう人は少なくありません。
ある調査によると、就職活動に「自信がある」と回答した学生はわずか4.9%、社会人でも「自信がある」人は約4人に1人に過ぎないというデータがあります。
しかし、それは能力不足ではなく、自己評価の基準を無意識に高く設定しすぎていることが最大の原因です。
なぜ私たちは自信を失ってしまうのでしょうか。その背景にある思い込みの正体と、企業が見ている本来の視点について解説します。
SNSやメディアが作り出す「実績インフレ」の罠
近年、インターネットなどを通じて他者の輝かしい実績を目にする機会が増えました。
「長期インターンで新規事業を立ち上げた」
「学生団体で数百人を動員した」
こういったエピソードが溢れ、いわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」のインフレが起きています。
こうした情報に触れるうちに、無意識のうちに自己PR=人並み外れた成果の発表であるという誤った認識(認知の歪み)が形成されてしまいます。
その結果、自分自身の経験を過小評価し、「自分には何もない」という思考停止に陥ってしまうのです。
企業が本当に知りたいのは「すごい過去」ではなく「未来の再現性」
しかし、採用担当者の視点に立つと、評価のポイントは全く異なるものが見えてきます。
企業は、輝かしい功績を持つ人を採用したいわけではありません。
組織の一員として、日々の業務を確実に遂行し、周囲と協調しながら貢献できる人物を求めています。
ここで重要になるのが再現性という概念です。
派手な実績は、その時の環境や運に左右された可能性があり、必ずしも新しい職場で再現できるとは限りません。
一方で、以下のような行動習慣は、環境が変わっても継続される可能性が高いスキルです。
- 毎日遅刻せずに業務を開始する
- 報告・連絡・相談を欠かさない
- 整理整頓を徹底するなど
労働契約という法的な観点から、労働契約の締結においては、「企業が労働者に求める職務遂行能力の有無」や「誠実義務」といった観点が大切です。
つまり、将来的な貢献の予測可能性が高い(=債務不履行リスクが低い)人材は、企業にとって非常に価値の高い存在と言えます。

派手さよりも、堅実さや信頼性こそが、多くの企業が求めている資質なのです。
2.「ない」を「ある」に変える!3つの視点転換法(リフレーミング)

「書くことがない」と悩むのは、経験が不足しているからではなく、事実の切り取り方が固定化されているからです。
この状態を打破する鍵が、物事の枠組みを変えて捉え直す心理学の手法「リフレーミング」です。
特別なエピソードを新しく作る必要はありません。今ある経験に異なる角度から光を当てるだけで、見過ごしていた価値が強みとして現れます。
ここでは、心理的障壁を取り除き、強みを再発見するための3つの変換視点(リフレーミング技術)を解説します。
プロセスに目を向ける
ポジティブ変換
基準を下げる
視点1:「結果」ではなく「プロセス(工夫)」に目を向ける
成果の「大きさ」ではなく、その成果に至るまでの「過程」に焦点を当てます。
たとえ結果が平均的であったとしても、そのプロセスにおいて独自の工夫や努力があれば、それは立派なアピール材料となります。
(例)
全国大会出場という結果はないが、予選突破のために練習メニューをデータに基づいて見直し、チームの練習効率を上げた。
→このようなプロセスがあれば、課題発見力や改善力としてアピールできます。

結果(Result)そのものよりも、どのように取り組んだか(Action)という行動特性にこそ、その人の人柄や能力が現れるからです。
視点2:短所を長所に翻訳する「ポジティブ変換」
短所と長所は表裏一体の関係にあります。自分の性格をネガティブに捉えている場合でも、文脈を変えれば強力な武器になります。
ポジティブ変換の例
- 心配性 → 「リスク管理能力が高い」「慎重で正確」
ミスが許されない事務職や、安全管理が求められる現場では重宝される資質です。 - 飽きっぽい → 「好奇心旺盛」「切り替えが早い」
変化の激しい業界や、多角的な視点が必要な企画職では強みとなります。 - 頑固→ 「意志が強い」「粘り強い」
困難なプロジェクトを完遂する力として評価されます。

自身の弱点だと思っている部分こそが、実は他者にはない独自の強みである可能性が高いのです。
視点3:「当たり前」の基準を下げる
自分にとって当たり前すぎて意識していない行動の中に、他者から見れば才能と呼べるものが眠っています。
当たり前じゃない才能の例
- 毎日休まず出勤する → 「継続力」「ストレス耐性」「責任感」
- 飲み会の幹事をいつも引き受ける → 「調整力」「ホスピタリティ」「企画力」
- 人の相談によく乗る → 「傾聴力」「課題発見力」「信頼関係構築力」
これらは特別なイベントではなく、日常のルーティンの中に存在します。

労働の現場においても、特別なスキルよりも「勤怠が安定している」「人間関係のトラブルを起こさない」といった基礎的な能力(ソフトスキル)を持つ人材は、長期的に見て高く評価される傾向にあります。
3.今日から書ける自己PR作成の具体的手順

視点を切り替えたところで、実際に自己PRを作成するための具体的なステップを解説します。
前章までのマインドセット変革を踏まえ、ここからは自身の強みを具体的な言葉に落とし込むための実践プロセスへと移ります。
「何を書けばいいかわからない」と手が止まってしまう人でも心配いりません。
- 自分の過去を可視化するグラフ
- 他者視点の活用
- AIという最新の武器
これら3つのステップを順にこなしていくと、自身の強みが明確な言葉に変わっていきます。以下で具体的な作成手順を解説します。
ステップ1:モチベーショングラフで感情が動いた瞬間を探す
過去の経験を振り返る際、単に出来事を羅列するのではなく、感情の動きに着目する方法です。
縦軸にモチベーション(充実感)、横軸に時間をとり、幼少期から現在までの曲線を書いてみてください。
困難に直面した際に、どのように考え、どう行動して乗り越えたか。
特に注目すべきは成功した時(山)ではなく、挫折した時(谷)から立ち直った過程です。

その回復のプロセス(レジリエンス)にこそ、独自の価値観や行動特性が色濃く反映されます。
ステップ2:他己分析(ジョハリの窓)で「無意識の強み」を知る
自分では気づいていないが、他人は知っている「盲点の窓」にある強みを探ります。
友人や家族、同僚にインタビューを行うことが有効ですが、漠然と「私の強みは?」と聞くのは避けましょう。
具体的なエピソードを引き出すために、以下のような質問を投げかけてみてください。
無意識の強みを引き出す質問例
- 「私がチームにいて助かったと思った瞬間はいつ?」
- 「私が夢中で話しているときはどんな話題のとき?」
- 「私に向いていなさそうな仕事は何だと思う?(逆説的に向いている仕事が見えてきます)」

他者の客観的な視点を取り入れることで、自分ひとりでは到達できない強みに気づくことができます。
ステップ3:AIツールを「壁打ち相手」にする活用術
ChatGPTやGeminiなどの生成AIを、キャリアカウンセラーのように活用することも有効です。
ただし、丸投げして作成させるのではなく、対話を通じて強みを客観的に整理し、言語化するプロセスを効率化します。
例えば、以下のようなプロンプト(指示文)を使用してみましょう。
(プロンプト例)
私は事務職として3年間働いてきましたが、特筆すべき実績がありません。
主な業務はデータ入力、電話対応でした。性格は『真面目』と言われます。
この情報から、採用担当者に響く自己PRの切り口を3つ提案し、それぞれのエピソードの骨子を作成してください。

AIからの提案をヒントに、自分だけのエピソードを肉付けしていくことで、効率的かつ客観的な自己PRを作成できます。
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4.【状況別】そのまま使える自己PRの構成テンプレートと例文
自己PRの構成には、STAR法を用いましょう。
ストーリーとして以下のような流れで書くと、論理的に整理され、説得力が向上します。
STAR法
説得力のあるストーリーを構成するフレームワーク
しかし、「そもそも誇れる実績がない」「数値で成果が出しにくい」と悩む方もいるのではないでしょうか。
そこで、多くの人がつまずきがちなアピール材料に困る3つの状況ごとの例文を用意しました。
型に当てはめて、自信を持って語れるPRを作りましょう。
ケース1:学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)がない新卒の方
リーダーシップ経験などがなくても、フォロワーシップ(支える力)をアピールします。
アピールポイント:協調性とサポート力
【結論】私の強みは、チームの状況を察知し、円滑な運営を支える「サポート力」です。
【状況・課題】大学のゼミ活動において、グループワークの議論が停滞し、結論が出ないことが多々ありました。
【行動】そこで私は、書記係として意見を板書で整理するだけでなく、対立する意見の共通点を見つけて提示するように努めました。
【結果】その結果、議論が建設的に進むようになり、期日内にレポートを完成させることができました。貴社でも、チームの潤滑油として貢献したいと考えています。
ケース2:未経験職種への転職でアピール材料がない方
実務経験がない場合、学習意欲と、どの職種でも通用するポータブルスキルを強調します。
アピールポイント:学習意欲と適応力
【結論】私の強みは、未経験の分野でも主体的に学び、適応する吸収力です。
【状況・課題】前職は販売職でしたが、バックオフィス業務への転身を決意しました。しかし、PCスキルに不安がありました。
【行動】そこで、退社後の時間を活用して毎日2時間の学習を継続し、3ヶ月でMOS資格を取得しました。
また、店舗の売上管理表をExcelで自作し、業務効率化を実践しました。
【結果】この経験で培った自ら課題を見つけ、スキルを習得して解決する姿勢は、貴社の事務職においても必ず活かせると確信しています。
ケース3:事務職・バックオフィスで数値成果が出しにくい方
正確性や継続力を数値化してアピールします。ミスゼロや継続期間は立派な数値実績です。
アピールポイント:正確性と責任感
【結論】私の強みは、当たり前のことを正確にやり抜く徹底力です。
【状況・課題】前職のデータ入力業務では、膨大な顧客データを扱うため、入力ミスが許されない環境でした。
【行動】独自のチェックリストを作成してダブルチェックを徹底するとともに、入力フローの見直しを提案しました。
【結果】その結果、3年間で入力ミスゼロを継続し、部署内で最も信頼される担当者として評価されました。
貴社の業務においても、この正確性を発揮し、信頼の維持に貢献します。
5.自己PR文がどうしても書けない時のQ&A
最後に、自己PR作成時によくある疑問について、法務・労務および採用実務の観点から回答します。
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Q. 嘘をついてもいいですか?
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絶対にNGです。
倫理的な問題はもちろんですが、採用選考において経歴や能力を偽ることは、入社後のミスマッチやトラブルの最大要因となります。
特に就業規則等の定めに照らし、重要な経歴の詐称は、労働契約解除の正当な理由(懲戒解雇事由等)となりうるリスクがあります。
盛る(誇張する)のではなく、切り口を変える(解釈を変える)ことに注力してください。事実に基づいた解釈の変更は、嘘ではありません。
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高校時代のエピソードを使っても大丈夫ですか?
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基本的には直近の経験(大学時代や前職)が望ましいですが、使用可能です。
ただし、過去の栄光として語るのではなく、その時に培われた価値観や強みが、現在も続いているという現在進行形のストーリーとして語る必要があります。
高校時代の部活動で培った精神力が、現在の業務における粘り強さの根幹になっているといった一貫性を示すことが重要です。
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オンライン面接で自信を持って伝えるコツは?
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オンライン面接では、対面よりも熱意や雰囲気が伝わりにくい特性があります。
視覚情報を補うために、結論を短く言い切る(ショートセンテンス)話し方を意識しましょう。
また、カメラ目線を維持し、普段より少し大きめのリアクションを取ることも有効です。
手元にキーワードを書いたメモを用意しておくなど、オンラインならではの環境を逆手に取った準備も心の余裕につながります。
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6.「何もない」と思っていた日常に「強み」が眠っている

自己PRがないと悩むことは、決して能力が低いということではありません。自身の経験を企業が求める価値に翻訳する視点が不足しているだけです。
誰もが驚くような実績を持っていなくても、日々の業務を誠実にこなし、周囲と協力して課題を解決しようとする姿勢は、企業にとって代えがたい価値があります。
まずは小さな行動習慣や、自分なりの工夫を書き出すことから始めてみてください。その等身大の言葉こそが、採用担当者に伝わる自己PRになるはずです。
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