履歴書を作成する際、多くの人が「ここで合っているのだろうか」と手を止めてしまうのが、末尾にある「配偶者の扶養義務」や「扶養家族数」の欄です。
普段の生活では聞き馴染みのない「扶養」という言葉ですが、いざ書類に記入しようとすると、共働きの場合や、パート収入がある配偶者の扱いなど、判断に迷うポイントが次々と出てくるものです。
「所得税の扶養と何が違うのか」「交通費は年収に含めるべきか」といった疑問は、実務上のルールを知らなければ解決できません。また、この欄を正しく記入することは、単なる形式的な事務作業ではなく、入社後の社会保険手続きを円滑に進め、企業との信頼関係を築くための最初の大切なステップでもあります。
この記事では、状況別の正しい書き方を詳しく解説します。130万円の壁の正確な中身から、間違いやすい扶養家族数の数え方まで網羅しました。この記事を最後まで読めば、自身の状況に合わせた最適な記入方法が分かり、自信を持って履歴書を完成させることができるはずです。
- 「配偶者の扶養義務」の正確な定義と、企業がこの情報を必要とする実務上の理由
- 共働き、専業主婦、パートなど、状況に応じた具体的な「有・無」の判断基準
- 106万円・130万円の壁の最新ルールと、間違いやすい扶養家族数の数え方
1.履歴書の「配偶者の扶養義務」とは?基本の定義を解説

履歴書の作成を進める中で、多くの求職者が手を止めてしまうのが「配偶者の扶養義務」という項目です。日常的には馴染みの薄い言葉ですが、これは単なる家族構成の確認ではなく、入社後の社会保険手続きや給与計算に直結する非常に重要な情報です。
「配偶者の扶養義務」欄の意味と「有・無」の判断基準
この欄は、簡単に言えば「入社後、配偶者を自身の健康保険や厚生年金の扶養に入れる必要があるか」を問うものです。
ここでの判断基準は、所得税などの「税制上の扶養」ではなく、「社会保険(健康保険・厚生年金)上の扶養」に該当するかどうかで考えるのが一般的です。
- 「有」に◯をつける場合:
配偶者を自身の健康保険の扶養に入れる予定がある場合です。目安として、配偶者の年収見込みが130万円未満(60歳以上や障害者は180万円未満)であり、かつ配偶者が自身の職場で社会保険に加入する要件(週20時間以上の勤務など)を満たしていない状態を指します。 - 「無」に◯をつける場合:
配偶者を自身の扶養に入れる必要がない場合です。配偶者が正社員として働いている、あるいはパート・アルバイトであっても「週20時間以上」の勤務により配偶者自身が社会保険に加入している(または加入予定である)場合は、年収額に関わらず「無」となります。
また、配偶者の年収が130万円以上ある場合もこちらを選びます。
なぜ企業は「扶養」の状況を確認するのか?採用担当者の視点
1. 社会保険手続きの迅速化
事務処理の優先度
健康保険・年金の手続きを円滑に進め、保険証を早期発行するため。入社直後の通院トラブルを防ぎます。
2. 福利厚生(手当)の算定
給与条件への影響度
家族手当や配偶者手当の対象かを確認し、正確な給与提示や人件費の見積もりを行うため。
3. 正確な源泉徴収事務の準備
納税処理の正確性
所得税の天引き額を正しく算出するため。入社後の計算ミスや還付の手間を最小限に抑えます。
企業側がこの情報を収集する背景には、主に3つの実務的な理由があります。これを知ることで、記載の重要性がより深く理解できます。
1つ目は、「社会保険手続きの迅速化」です。
採用が決まった際、会社は日本年金機構や健康保険組合に対して、新たに雇用した労働者の加入手続き(資格取得届)を行います。配偶者に扶養義務がある場合、同時に「被扶養者(異動)届」などの書類作成が必要になるため、あらかじめ状況を把握しておくことで、健康保険証の発行などの事務処理を滞りなく進めることができます。
保険証が手元に届くのが遅れると、通院が必要な際に一旦全額負担になるなど、本人にとっても不利益が生じかねません。
2つ目は、「福利厚生(家族手当など)の算定」です。
企業によっては、扶養家族の有無に応じて家族手当や配偶者手当を支給しています。その支給対象になるかどうかを、履歴書の記載内容から概算・確認するケースがあります。これは給与条件の提示や、入社後の人件費見積もりにも関わります。
3つ目は、「正確な源泉徴収事務の準備」です。
配偶者が所得税法上の扶養にも入る場合、毎月の給与から天引きされる所得税額が変わります。入社後の事務負担を軽減し、間違いを防ぐために、事前の正確な申告が求められています。
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履歴書の扶養欄以外にも、各項目には記入ルールがあります。履歴書全体の書き方を網羅的に知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
2.【ケース別】「配偶者の扶養義務」欄はどっちに◯をつける?
状況によって判断が分かれるポイントを、さらに具体的に掘り下げて確認します。自身の現在の状況、そして入社後の予定と照らし合わせてください。
| 配偶者の就業・収入状況 | 記入内容 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 正社員・社会保険加入中のパート | 無 | 既に自身の職場で社会保険(健康保険・厚生年金)を保持しているため。 |
| 専業主婦・主夫(完全無職) | 有 | 入社後に自身の被扶養者として健康保険・年金の手続きが必要なため。 |
| パート(年収130万以上) | 無 | 社会保険の扶養認定基準(130万円)を超えるため、自身で国民健康保険等に加入するか職場で加入。 |
| パート(年収130万未満) | 有 | 社会保険の扶養に入れる条件を満たすため。※「週20時間」の条件に注意。 |
共働き夫婦の場合:判断の分かれ目と「未来」の視点
「現在」の状態ではなく
「入社時の予定」で記載する
今はフルタイムでも、入社後に扶養に入ることが確実なら「有」と書くのが企業・本人双方にとって最もスムーズ。
育休中で給付金受給中でも、自分の扶養内なら「有」。
配偶者が一定の収入を得ている共働きの場合、基本的には「無」となります。ただし、履歴書に記載すべきは「現在」の状態だけではなく、「入社した時点での予定」あるという視点が極めて重要です。
例えば、現在は配偶者がフルタイムで働いていても、自身の転職・転居に伴い配偶者が退職し、入社後に扶養に入る予定が確実であれば、「有」と記載して差し支えありません。履歴書は「入社後の社会保険手続きの予約票」としての役割も持っているため、入社時の実態に合わせるのが最も合理的だからです。
逆に、配偶者が育児休暇中で給付金を受けている場合なども、自身の健康保険に扶養として入っている状態であれば「有」となります。
パート・アルバイトで働いている配偶者の「年収の内訳」と交通費の落とし穴
130万円の壁には
「交通費・手当」も含まれる
所得税の計算と違い、社会保険の扶養認定では「交通費」も収入に合算。基本給が120万でも、交通費込みで130万を超えれば扶養外(無)。
振込額ではなく、交通費等を含んだ「総支給額(額面)」の見込みで判断。
判断の基準となる「130万円」には、所得税(103万円の壁)の計算とは異なる、実務特有のルールがあります。
税金(所得税)の計算では、通勤交通費は一定額まで非課税として収入に含みませんが、社会保険の扶養認定においては「交通費」や「各種手当」もすべて収入に含めるのが原則です。
「基本給だけなら月額10万円(年換算120万円)だが、交通費や残業手当を含めると月額11万円(年換算132万円)になる」というケースでは、社会保険上は扶養に入れない(=「無」に◯をつける)可能性が高くなります。
配偶者の給与明細を確認する際は、「振込額」ではなく、交通費等を含んだ「総支給額(額面)」の直近の実績と、今後の契約内容から推測される「年収見込み」で判断することが重要です。
【重要】「106万円の壁」から「週20時間の壁」へ
年収額よりも
「週20時間以上の契約か」
法改正により、企業規模に関わらず「週20時間以上」の勤務なら配偶者自身が社会保険に加入する方向へ。今後は年収以上に労働時間が判断の軸に。
20時間を超える予定があれば、自身の扶養からは外れるため「無」を選択。
これまでパート・アルバイトの判断基準として重視されてきた「年収106万円」という基準は、現在、制度の大きな転換期を迎えています。
厚生労働省の方針によれば、これまで適用条件とされていた「年収106万円(賃金基準)」や「従業員数51人以上という企業規模要件」は、将来的に撤廃される方向にあります(最短で2025年6月以降、3年以内の実施予定)。
この改正により、今後は「いくら稼ぐか」以上に、「週に20時間以上働く契約かどうか」が社会保険加入の決定的な判断基準となります。
- 現状: 勤務先の規模や年収(106万円/130万円)の両面で判断。
- 将来的(改正後): 年収に関わらず、週20時間以上の勤務なら配偶者自身が社会保険に加入(=自身の扶養からは外れるため、履歴書は「無」)。
このように、今後は「週20時間の壁」が実務上の焦点となります。配偶者がパート・アルバイトで働いている場合は、年収額だけでなく「週の契約労働時間」を必ず確認してください。
20時間を超える予定(または現在の契約が20時間以上)であれば、配偶者自身の職場で社会保険に加入することになるため、履歴書上の扶養義務は「無」に◯をつけるという判断するのが適切です。
3.「扶養家族数」の数え方と間違いやすい注意点
配偶者は「扶養家族数」に含めないのが鉄則
履歴書の「扶養家族数(配偶者を除く)」欄では、配偶者は人数に含めません。隣の「配偶者の扶養義務」欄で別途回答するため、ここではカウントを重複させないのが通例です。
具体的なカウント例
重要:16歳未満の子どもの扱い
所得税の「扶養控除」対象外であっても、社会保険や企業の家族手当ではカウントされます。16歳未満であっても、自身の収入で養っているなら必ず人数に含めて記入してください。
「配偶者の扶養義務」欄の隣に設けられている「扶養家族数」は、数え方のルールを誤ると、家族手当の算定漏れや、逆に過払いによる返還請求などのトラブルに発展しかねません。
配偶者は「扶養家族数」に含めないのが鉄則
履歴書のフォーマットには、多くの場合「扶養家族数(配偶者を除く)」という注釈があります。もしこの注釈がない場合でも、配偶者は人数に含めないのが通例です。配偶者の有無は隣の欄で別途回答しているため、ここで重複してカウントすることはありません。
「扶養家族数」とは、あなたの収入で養っている配偶者以外の家族を指すと覚えておきましょう。
具体的なカウント例(子や両親がいる場合)
自身の収入によって生計を維持している家族(子、両親、祖父母、兄弟姉妹など)の人数を記入します。
- ケース1:専業主婦の配偶者、中学生の子ども1人の場合
- 配偶者の扶養義務:有
- 扶養家族数:1人(子どものみ)
- ケース2:共働きの配偶者、子ども2人、同居して扶養している75歳の母の場合
- 配偶者の扶養義務:無
- 扶養家族数:3人(子ども2人+母)
- ケース3:単身者で、別居している無収入の父(65歳以上)に仕送りをしている場合
- 配偶者:無(または配偶者なしに◯)
- 扶養家族数:1人(父のみ)
ここで注意が必要なのは、16歳未満の子どもの扱いです。2011年の税制改正により、16歳未満の子どもは所得税の「扶養控除」の対象外となりました。しかし、社会保険上の「扶養」や、企業の「家族手当」の対象からは外れていません。履歴書上の「扶養家族数」には、16歳未満であっても自身の収入で養っているなら必ずカウントしてください。
4.実務的な視点で解決!よくある疑問Q&A

履歴書作成時に生じやすい、より細かな疑問や「こんな時どうする?」というケースにお答えします。
-
複数の子供を夫婦それぞれが一人ずつ扶養している場合は?
-
いわゆる「扶養の分担」をしている場合、あくまで「自分自身が健康保険上の扶養に入れている人数」を記載します。
例えば子供が2人いて、1人を自分が、もう1人を配偶者の扶養に入れているなら、自身の履歴書には「扶養家族数:1人」と記入します。
-
別居している両親を扶養家族数に入れてもいい?
-
別居していても、継続的な仕送りによって生計を維持しており、健康保険の被扶養者として認定されている(または認定予定である)場合は、カウント可能です。
ただし、社会保険の認定には「仕送り額が両親の収入を上回っていること」などの厳格な証明が求められるため、現時点で認定されていない場合は「0」としておき、入社後に担当部署へ相談するのがスムーズです。
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履歴書の「配偶者」欄と「配偶者の扶養義務」欄の違いは?
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「配偶者:有・無」は単純に結婚しているかどうかを問い、「配偶者の扶養義務:有・無」は、その配偶者を自身が養う必要があるかを問うています。
- 結婚しているが、配偶者がバリバリ働いている場合:配偶者「有」、配偶者の扶養義務「無」
- 独身の場合:配偶者「無」、配偶者の扶養義務「無」
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履歴書を書き終えた後で扶養人数が変わったら?
-
もし提出後に配偶者の就職が決まったり、逆に扶養家族が増えたりした場合は、速やかに採用担当者に連絡を入れましょう。「履歴書の記載内容から変更が生じました」と正直に伝えることで、企業側も社会保険の手続きを修正でき、かえって「報告連絡がしっかりできる人だ」という信頼に繋がります。
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5.間違いを防ぐためのチェックリスト

提出前に、以下のポイントを最終確認してください。
□配偶者の年収見込みには「交通費」が含まれているか?
□配偶者の職場の社会保険に、配偶者自身が加入していないか?(106万円の壁)
□「扶養家族数」から配偶者の人数を除外しているか?
□16歳未満の子どもを「扶養家族数」に含めているか?
□「配偶者なし」の場合、すべての欄を「無」や「0」で埋めているか?(空欄にしない)
6.正しく記載してスムーズな入社準備を
履歴書の扶養欄を正しく記入することは、単なる形式的な事務作業ではありません。新しい職場で安心して働き始めるための、企業との最初の大切な情報共有であり、信頼関係を築く第一歩です。
「社会保険の手続きを適切に行い、給与を正しく計算してもらうための、企業への親切な情報提供」と捉えれば、決して難しいものではありません。
もし自身の状況が非常に特殊で、どうしても履歴書の小さな欄だけでは説明しきれない場合は、本人希望記入欄に「配偶者の扶養については、現在の就業状況に基づき、入社時に詳細をご相談させていただけますと幸いです」と一言添えてください。
こうした丁寧な配慮は、ビジネスパーソンとしての誠実さと、事務処理能力の高さ(正確性)の証明になります。自信を持って履歴書を完成させ、新しいキャリアの第一歩を気持ちよく踏み出しましょう。