履歴書の作成中に「印」というマークを見つけ、手元にあるシャチハタで済ませて良いものか、わざわざハンコを買いに行くべきか迷うことはよくあります。
些細なことのように思えますが、書類の不備で評価を下げてしまうリスクは避けたいものです。
この記事では、最新の労働法規や採用実務の基準に基づき、履歴書における印鑑の正しい扱い方を解説します。
現在の法的基準や、なぜシャチハタが不適切とされるのかという技術的な理由、そして失敗しないための具体的な手順を知ることで、迷いなく書類作成を進められるようになります。
- 現在の履歴書で印鑑が「原則不要」とされる法的背景と、それでも必要なケースの判断基準
- なぜ「シャチハタ」がNGなのか?人事書類としての適性にかかわるインクと素材の科学的理由
- 100円ショップのハンコでもOK?失敗をゼロにする「押印のベストなタイミング」と具体的な手順
1.履歴書に印鑑(ハンコ)は原則不要!その理由と法的背景

結論から申し上げますと、現在、履歴書への押印は「原則として不要」です。
かつては必須とされていた慣習がなぜ変わったのか、その背景にある行政の動きと現在の標準的なルールについて、法的な視点から解説します。
1997年の行政改革と「押印見直しガイドライン」
「脱ハンコ」の流れは最近始まったことではありません。実は1997年(平成9年)の段階で、行政改革委員会および閣議決定により「押印見直しガイドライン」が策定されています。
このガイドラインは、行政手続きにおける国民の負担を軽減することを目的としており、実印が必要な重要契約などを除き、原則として「記名のみでよし(押印廃止)」とする方針が示されました。
履歴書も、単に事実や状況を把握するための書類であるため、本質的には押印によって法的効力を担保する必要はないと考えられています。
2021年の「厚生労働省履歴書様式例」による押印欄撤廃
長らく市販の履歴書の多くは「JIS規格(日本産業規格)」の様式に基づいており、そこには押印欄が存在していました。
しかし、2020年7月にJIS規格から履歴書の様式例が削除されたことを受け、厚生労働省は2021年に新たな「厚生労働省履歴書様式例」を公表しました。
この新しい様式の最大の特徴は、「押印欄が完全に撤廃されたこと」です。現在、ハローワークや多くの転職サイトで配布されている標準的なフォーマットには、そもそもハンコを押す場所がありません。これが、現在のスタンダードです。
それでも「押印欄あり」の履歴書が出回っている理由
「不要なはずなのに、手元の履歴書には「印」マークがある」という場合、以下の理由が考えられます。
- 文具店やコンビニに、JIS規格時代の古い在庫が残っている
- インターネット上で、古い形式のテンプレートをダウンロードしてしまった
- 企業独自のフォーマットで、慣習として押印欄が残されている
法的には不要であっても、使用する用紙に欄がある場合は、空欄のまま提出すると「記入漏れ」と誤解されるリスクがあります。次項で、具体的な対応を整理します。
2.【ケース別】履歴書に押印が必要な場合・不要な場合
押印が「不要」なケース
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履歴書に「押印欄」がない 用紙に印マークがない場合、無理に余白に押す必要はありません。
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Webエントリーフォーム 入力して送信する形式の場合、押印は不要です。
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データ提出 (PDFなど) 特段の指示がない限り、電子印鑑も不要です。
押印が「必要」なケース
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履歴書に「押印欄」がある 空欄は「書き忘れ」と判断される可能性があるため、認印を押します。
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企業からの指示がある 「捺印の上、持参・郵送」等の指示は絶対的なルールですので必ず従います。
自身の状況に合わせて、ハンコを押すべきか否かを判断するための基準をまとめました。
押印が「不要」なケース
以下のような場合は、基本的にハンコを押す必要はありません。無理に余白に押す必要もありません。
- 使用する履歴書用紙に「押印欄(印マーク)」がない場合
- Webエントリーフォームに入力して送信する場合
- PDFなどのデータで提出する場合(※特段の指示がない限り、電子印鑑も不要です)
押印が「必要」なケース
一方、以下のケースでは押印が必要です。ここは「マナー」として、しっかりと対応することが求められます。
- 使用する履歴書用紙に「押印欄(印マーク)」がある場合:空欄は「書き忘れ」と判断される可能性があるため、認印を押します。
- 企業から「捺印の上、持参・郵送してください」と指示がある場合:企業の指示は絶対的なルールですので、必ず従います。
3.なぜ履歴書に「シャチハタ」を使ってはいけないのか?【技術的解説】


「ハンコが必要なのはわかったけれど、手元にあるシャチハタ(浸透印)ではダメなのか?」
この疑問に対し、単なるマナー論ではなく、物質科学的・法的な視点からも「なぜ人事書類に適さないのか」を深掘りして解説します。
理由は大きく分けて「インクの耐久性」「印面の変形リスク」そして「ビジネス上の慣習」の3点に集約されます。
1. インクの化学的性質:長期保存へのリスク
最大のリスクは「インクの成分」の違いにあります。
- シャチハタ(染料系インク):多くの浸透印に使われる染料インクは、紙の繊維に浸透して発色します。水に濡れると滲み出しやすく(耐水性が低い)、光(紫外線)や空気中の成分に反応して、時間とともに退色・変色しやすい性質があります。
- 認印(朱肉・顔料系インク):朱肉に使われる顔料は、油分や樹脂を含んでおり、紙の表面に強固に定着します。耐光性・耐水性が非常に高く、契約書などの長期保存書類(アーカイブ)に適した仕様です。
企業は、採用した従業員の履歴書を、退職後も法律に基づき一定期間保管する必要があります。
数年後にインクが消えてしまったり、滲んで判読できなくなったりする恐れがあるシャチハタは、公的な記録としての「証拠能力」に欠けると判断されます 。
参考:freee|シャチハタとは|印鑑との違いや利用シーンを解説解説
2. ゴム素材の物理的性質:本人確認機能の欠如
もう一つの技術的な問題は、印鑑の面の素材です。
シャチハタの面は多孔質の「ゴム」で作られています。ゴムは柔らかく弾力性があるため、押す時の力の入れ具合や角度によって、印影が太くなったり歪んだりして、その都度形が変わってしまいます。
本来、印鑑は「いつ押しても同じ形(同一性)」であることが求められ、それによって本人確認を行います。毎回形が変わってしまうゴム印は、厳密には「本人であることを証明する能力」が低いとみなされるのです。
3. ビジネスマナーとしての「本気度」の欠如
機能面の問題に加え、採用担当者の心理的な心証も無視できません。
ビジネスの現場において、シャチハタは「回覧板の確認」や「宅配便の受領」など、あくまで「簡易的な確認印」として認識されています。
人生の節目となる就職活動の書類に簡易的なスタンプを使用することで、「志望度が低いのではないか」「TPO(時と場所と場合)をわきまえない人物ではないか」という懸念を抱かれるリスクがあります。
不要な減点を避けるためにも、朱肉を使う印鑑を選ぶのが賢明です。
4.履歴書に適した印鑑の選び方と入手方法

では、具体的にどのような印鑑を用意すればよいのでしょうか。高価なものを用意する必要はありません。
ベストは「認印(朱肉タイプ)」
履歴書には、役所に登録している「実印」や、銀行口座の届出に使っている「銀行印」を使用する必要はありません。
むしろ、個人情報保護とリスク管理の観点から、普段使いの「認印」を使用するのが適切です。
100円ショップのハンコは使えるか?
「急ぎで用意したい」「費用をかけたくない」という場合、100円ショップで販売されている印鑑を使用しても全く問題ありません。
ただし、選ぶ際には以下の点に注意してください。
- 朱肉を付けて押すタイプを選ぶ:100円ショップにはシャチハタタイプ(浸透印)も売られていますが、必ず「白いプラスチック製」などの朱肉を使うタイプを選んでください。
- サイズと書体:直径10mm〜12mm程度の標準的なサイズで、読みやすい「楷書体」や「行書体」のものが一般的です。
サイズと書体の選び方
印影が小さすぎたり(訂正印サイズ)、大きすぎたりするとバランスが悪くなります。直径10.5mm〜12mmのものがビジネス文書として最も標準的です。
書体は、誰にでも読みやすい「楷書体(かいしょたい)」が最も無難で好印象です。
5.【画像解説】失敗しない!きれいなハンコの押し方「4ステップ」
履歴書作成で最も恐ろしいのは、「すべて書き終えた最後にハンコを失敗して、一から書き直しになること」です。
このリスクをゼロにする、ライフハックと、きれいに押すための手順をご紹介します。
【最重要】履歴書を書く「前」に押す
これが最大のポイントです。履歴書用紙を買ってきたら、氏名などを書き入れる前に、まず印鑑を押してしまいましょう。
もし失敗しても、新しい用紙を使えばよいだけで、志望動機などを書いた数時間を無駄にせずに済みます。書き損じのリスクを物理的に排除する、非常に合理的な戦略です。
Step 1: 捺印マット(なければ雑誌)を敷く
マット(または雑誌)を敷く
硬い机はNG。ゴムマットや雑誌を下に敷いて、クッション性を確保。
硬い机の上で直接押すと、力が均等に伝わらずにかすれの原因になります。
ゴム製の捺印マットを敷くのがベストですが、手元になければ週刊誌やノートなど、適度なクッション性のあるものを下に敷いてください。
Step 2: 印鑑の面を掃除し、朱肉を「トントン」と軽くつける
面を掃除し、軽く叩く
ゴミを取り、朱肉は「トントン」と軽く叩くように付ける。強く押すのはムラのもと。
印鑑の面にゴミや古い朱肉が詰まっていると、印影が汚くなります。ティッシュなどで拭き取ってから、朱肉を付けます。
この時、ギュウギュウと押し付けるのではなく、トントンと軽く叩くようにして、印鑑の面全体に均一にインクを乗せるのがコツです。
Step 3: 「の」の字を書くように重心を移動させて押す
「の」の字を書くように
「の」の字を描くように重心を移動させて押す。縁までくっきりと写る。
所定の位置に印鑑を置いたら、印鑑の上で「の」の字を描くように、上下左右に重心を移動させながら押します。こうすることで、枠の縁までしっかりと力が伝わり、欠けのないきれいな印影になります。
Step 4: 真上に引き上げる
真上に引き上げる
紙を擦らないよう、真上にスッと引き上げる。
最後に、紙を擦らないよう、真上にスッと引き上げます。これで完了です。
6.これって失敗?ハンコのミス対処法 Q&A

どれだけ注意していても、ミスが起きることはあります。よくあるトラブルの対処法をまとめました。
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少し曲がってしまった(傾き)
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多少の傾きならそのまま提出して問題ありません。
45度も傾いているようであれば見栄えが悪いですが、多少の傾きであれば採用の合否には影響しません。「お辞儀ハンコ(左に傾けて押す)」などの俗説がありますが、まっすぐ押されていれば十分です。
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かすれてしまった/にじんでしまった
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文字が読めないレベルなら、新しい用紙に書き直してください。
履歴書において、二重線での訂正や訂正印の使用は「公的書類の訂正マナーとしては正しい」ものの、「志望度の高い企業への提出書類としては不適切(注意力が足りない)」と見なされるリスクがあります。手間でも書き直すのが確実です。
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押し忘れて提出してしまった
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気づいた時点で速やかに採用担当者に連絡しましょう。
「提出した履歴書に押印漏れがありました。申し訳ございません」と謝罪し、指示を仰ぎます。現在の法的基準では押印が必須ではないため、「そのままで結構です」と言われることも多いでしょう。最も良くないのは、気づいていないふりをすることです。
7.デジタル時代・DXにおける履歴書のハンコ事情
印鑑不要
データ提出なら、基本的に印鑑は不要。画像作成の手間はいりません。
「強い要望」時
どうしても必要な場合のみ、背景が透明な画像データを使用します。
デジタル容認
ハンコ文化に固執する企業は減少傾向。多くの企業が許容しています。
「中身」重視
ハンコの有無より、職務経歴やスキルが募集要項に合うかが重要です。
近年は、ExcelやWordで作成した履歴書をPDF化して送付するケースも増えています。
PDF提出時の電子印鑑について
データで提出する場合、基本的に印鑑は不要です。わざわざ電子印鑑の画像を作成して貼り付ける必要はありません。
ただし、企業側から強い要望がある場合や、どうしても形式を整えたい場合は、背景が透過された印鑑画像(PNG形式など)を使用します。
シヤチハタ社などが提供している電子印鑑サービスを利用するのも一つの手ですが、多くの場合はそこまでの対応は求められていません。
企業のDX化意識と今後の展望
企業の6割以上が「履歴書のデジタル化」を容認しており、ハンコ文化に固執する企業は減少傾向にあります。
重要なのは「ハンコがあるかどうか」よりも、「中身(職務経歴やスキル)が募集要項にマッチしているか」です。
形式的なマナーに過度にとらわれすぎず、本質的なアピールに時間を使いましょう。
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8.履歴書の印鑑は「認印」が正解!形式を整えて中身でアピールしよう
履歴書の印鑑について、重要なポイントを振り返ります。
- 現在の標準仕様(厚労省様式)では、履歴書の押印は原則不要。
- 押印欄がある場合のみ、空欄を避けるために押印する。
- シャチハタは「保存性」と「信頼性」の観点からNG。100均でも良いので「認印(朱肉タイプ)」を使う。
- 書き損じを防ぐため、履歴書は「書く前」に押すのが鉄則。
ハンコはあくまで形式上の手続きですが、細部にまで気を配れる丁寧さは、仕事への姿勢として評価されます。正しい道具と手順で不安を解消し、自信を持って書類を提出してください。