退職を控え、すでに次の仕事が決まっている段階において、「失業保険(基本手当)は受け取れるのだろうか?」「退職から入社までの間に、どのような手続きが必要になるのだろう?」と疑問を持たれるケースは少なくありません。
本記事では、雇用保険制度や労働法規の観点から、次の仕事が決まっている場合にもらえる可能性のある「再就職手当」の条件や金額の仕組みについて詳しく解説します。さらに、複雑に感じやすい社会保険の手続きについても網羅的に整理しました。
本記事を通して、退職前後の手続きの全体像と必要な要件を明確にし、スムーズに新しい職場へ移行するための準備にお役立てください。
- 次の仕事が決まっている場合の失業保険(基本手当)と再就職手当の仕組み
- 再就職手当を受け取るための条件と、もらえない要注意ケース
- 退職から新しい職場に入社するまでに必要な手続きと社会保険の切り替え
1.次の仕事が決まっている場合、失業保険(基本手当)は受給できる?

退職前に次の就職先が確定している場合、雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)の扱いは通常とは異なります。ここでは、なぜ基本手当が受け取れないのかという原則的な理由と、その代わりに用意されている支援制度の全体像について整理します。
原則として基本手当は受給できない理由
失業保険(正式には「基本手当」と呼びます)は、原則として次の仕事が決まっている場合には受け取ることができません。
この制度は、あくまで「就職したいという強い意思と、いつでも働ける能力があるにもかかわらず、職業に就けない状態(=失業状態)」にある方の生活をサポートするためのものだからです。
すでに転職先から内定をもらっており、入社を待っている状態は、雇用保険のルール上「失業状態」には該当しないと判断されるため、毎月の基本手当を受給する対象からは外れてしまいます。
なお、会社員としての再就職に限らず、以下のようなケースも「新たに働き始めた」または「就職に向けた活動ができない状態」とみなされ、原則として基本手当の対象外となります。
- 自営業を開始した人、または自営業の開業準備に専念する人(※ただし、自営業か会社員への就職か迷っており、ハローワークを通じた就職活動も並行して行える状態であれば対象となることもあります)
- 税務署に開業届を提出した人
- 会社の役員などに就任している人(※無収入の非常勤役員などの場合は、例外的に対象となることもあります)
失業保険の代わりに受け取れる可能性のある手当
基本手当の対象外となっても、雇用保険による支援がすべて失われるわけではありません。雇用保険には、失業期間を長引かせず、早期に再就職を果たした方を金銭面で支援するための「就業促進手当」という仕組みが用意されています。ここでは、代表的な3つの手当について整理します。
早期再就職を支援する「再就職手当」
就業促進手当の中で最も代表的なものが「再就職手当」です。これは、いわば「早期就職のボーナス(お祝い金)」のような位置づけであり、一定の条件を満たして早期に次の就職先を決めた場合、本来もらえるはずだった失業保険の残り日数分に応じたまとまった金額を、一括で受け取ることができる制度です。
賃金低下を補う「就業促進定着手当」
就業促進定着手当とは、再就職手当を受給した人で、再就職先に6カ月以上雇用され、再就職先での6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも低い場合に支給される手当です。基本手当の支給残日数の20%を上限として、離職前と再就職後6カ月間の賃金の差額(6カ月分)を目安として一時金が支給されます。
特定の条件を満たす方向けの「常用就職支度手当」
再就職手当の受給要件に該当しない場合でも、一定の条件を満たせば「常用就職支度手当」を受給できるケースがあります。
常用就職支度手当とは、離職時の年齢が45歳以上の方や障害のある方など、就職が困難な条件に当てはまる方が安定した職業に就いた際に支給される手当です。再就職手当の受給条件(支給残日数が3分の1以上など)に該当しない場合でも、一定の要件を満たせば受給できる可能性があります。
※なお、同じく早期就職を対象としていた「就業手当(アルバイトなどの非正規雇用への就業で支給)」は2025年4月をもって廃止されましたが、こちらの常用就職支度手当は引き続き制度が継続されています。
「再就職手当」と「常用就職支度手当」は、過去3年以内の就職について支給を受けていると受給できません。いずれにしても、各種手当の受給要件は細かく設定されていますので、現在の状況に当てはまる手当がないか、ハローワークの窓口等で確認することをお勧めします。
参考:ハローワークインターネットサービス|離職前の賃金より低い場合には「就業促進定着手当」
参考:厚生労働省|雇用保険に関する業務取扱要領(令和8年1月1日以降)
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退職前後に発生する手続きの全体像を把握したい方は、こちらの記事で退職の進め方から退職後の各種手続きまで一覧で確認できます。
2.早期就職でもらえる再就職手当の内容と受給の注意点

基本手当の代わりに受給できる可能性が最も高いのが「再就職手当」です。ただし、この手当を受け取るには国の定める複数の要件をすべてクリアする必要があります。ここでは、具体的な受給条件と、特に該当してしまいがちな「対象外となるケース」について詳しく確認していきます。
再就職手当を受け取るための条件
再就職手当を受け取るためには、以下のすべての条件をクリアする必要があります。一つでも欠けると受給できないため、現在の状況と照らし合わせて確認してみてください。
- ハローワークで求職の申し込みをした後に採用が決まったこと:
これが最も重要なタイミングの条件です。 - 失業保険の支給残日数が3分の1以上残っていること:
本来失業保険をもらえる日数(所定給付日数)が、就職日の前日時点で3分の1以上残っている必要があります。 - 前の会社と密接な関係がない会社に就職したこと:
元の会社に出戻りしたり、資本関係がある子会社や関連会社に就職したりした場合は対象外です。 - 1年を超えて引き続き雇用される見込みがあること:
正社員としての就職や、更新の可能性がある1年以上の長期契約などが該当します。短期のアルバイトや派遣契約は対象外となることがあります。 - 過去3年以内の就職について、再就職手当や常用就職支度手当の支給を受けていないこと:
短期間で退職と再就職を繰り返し、手当を何度も受け取ることを防ぐためのルールです。
要注意!再就職手当が受け取れないケース(求職申し込み前の内定など)
【NG例】再就職手当の対象外になるスケジュール
1
内定・採用通知を
もらう
2
現在の会社を
退職する
3
ハローワークへ行く
手当は受け取れません!
【OK例】再就職手当の対象となるスケジュール
1
現在の会社を
退職する
2
ハローワークで
求職申し込み
3
内定・採用通知を
もらう
手当の対象になります!
最も陥りやすく注意が必要なのは、「ハローワークで求職の申し込み(手続き)をする前に、すでに次の会社から内定・採用通知を受けていた」というケースです。
例えば、在職中に転職活動を進め、退職日を迎える前の時点で転職先から採用通知を受け取っている場合などがこれに当たることがあります。
【NG例の一例】再就職手当の対象外となる可能性が高いスケジュール
- 在職中に次の会社から内定・採用通知をもらう
- 現在の会社を退職する
- 退職後にはじめてハローワークへ行き、求職の申し込みをする
このような場合、退職後にハローワークへ行っても、「すでに次の就職先が具体的に決まっているため、失業状態とはいえない」と判断され、再就職手当が受け取れない可能性が高くなります。
【OK例の一例】再就職手当の対象となる可能性があるスケジュール
- 現在の会社を退職する
- ハローワークで求職の申し込み(手続き)をする
- 求職活動の結果として、次の会社から内定・採用通知をもらう
このように、「ハローワークで求職の申し込みをして失業状態になったあとに決まった仕事」であれば、他の要件も満たせば再就職手当の対象となる可能性があります。
ただし、再就職手当の支給可否は、以下のような具体的な日付関係や、内定の内容・就職の確実性などを総合的に判断して決まります。
- 退職日
- 求職申込日
- 内定・採用通知日
- 就職(入社)日・実際に働き始めた日
再就職手当は「ハローワークで求職の申し込みをした後に決まった仕事」であることが原則ですが、個別の事情によって結論が異なる場合があります。必ず事前に、具体的な日程(退職日・求職申込日・内定日・就職日)をメモして、ハローワークの窓口で確認しましょう。
3.再就職手当はいくらもらえる?計算方法とシミュレーション
早く就職するほど、給付率がアップしてお得!
就職が決まったタイミング
再就職手当として実際にいくら受け取れるのかは、今後の生活設計においても重要なポイントです。支給される金額は、失業保険の残り日数や離職前の給与などによって変動します。ここでは、具体的な計算式とシミュレーション例を用いて、受給額の目安を解説します。
支給残日数による給付率の違い(60%と70%)
再就職手当の金額は、「早く就職先を見つけるほど、もらえる金額の割合(給付率)が高くなる」という仕組みになっています。具体的には、失業保険の残り日数(支給残日数)の割合によって、以下の2パターンに分かれます。
・支給残日数が「3分の2以上」残っている場合:残りの日数の70%
・支給残日数が「3分の1以上」残っている場合:残りの日数の60%
計算式は「基本手当日額(1日あたりの受給額) × 支給残日数 × 給付率(60%または70%)」となります。
受給額の計算シミュレーション例
具体的な数字を当てはめて計算してみましょう。
前提条件:基本手当日額が5,000円、所定給付日数が90日(自己都合退職などの一般的なケース)
例:残日数が60日(全体の3分の2以上)残った状態で早期に就職した場合
5,000円 × 60日 × 70% = 210,000円
※なお、基本手当日額には、離職時の年齢に応じた「上限額」が設定されています(例:毎年8月に改定されますが、60歳未満の場合は一定額が上限となります)。実際の金額は離職前の給与額によって変動します。
このように、条件を満たせば数十万円のまとまった金額を受け取れる可能性があり、新生活の支度金として非常に助かる制度です。
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再就職手当の受給額をさらに詳しく計算したい方は、こちらの記事で受給額の計算方法やシミュレーションツールの活用法をわかりやすく解説しています。
4.次の仕事が決まっている場合に必要な手続きと流れ
STEP 1
会社でのやり取り退職日付近
会社から書類を
受け取る
STEP 2
会社でのやり取り退職後10日〜2週間
離職票が
郵送で届く
STEP 3
ハローワーク初回訪問
求職の申し込み・
受給資格決定
STEP 4
ハローワーク就職の報告
採用証明書の
提出
再就職手当の申請や新しい職場への入社に向けて、退職前後には様々な書類のやり取りが発生します。手続きをスムーズに進めるためには、全体の流れを事前に把握しておくことが大切です。ここでは、退職する会社から受け取る書類と、ハローワークで行う手続きの手順を解説します。
会社から離職票などの書類を受け取る
退職の準備が進む中で、今の会社から今後の手続きに必要な書類を確実に受け取る必要があります。これらの書類には「退職日(最終出社日)に受け取るもの」と「退職後しばらく経ってから郵送されるもの」があるため、違いを整理しておきましょう。
【退職日付近に直接受け取ることが多い書類】
- 雇用保険被保険者証:
雇用保険の加入を証明する細長い書類です。次の会社に入社する際、雇用保険の手続きに必要となるため提出します。 - 年金手帳(または基礎年金番号通知書):
入社時に会社へ預けていた場合は返却されます。これも次の会社で厚生年金に加入するために必要です。
【退職後に郵送されることが多い書類】
- 離職票(雇用保険被保険者離職票):
ハローワークで再就職手当などの手続きを行うために欠かせない最重要書類です。
退職後に会社がハローワークへ手続きに行き、発行されたものを自宅へ郵送するというステップを踏みます。そのため、退職日当日に手渡しされることはなく、手元に届くまでには退職日から10日〜2週間程度かかるのが一般的です。 - 源泉徴収票:
その年の所得と納付済みの税金額が記載された書類です。次の会社で年末調整を行う際に提出を求められます。最後の給与の計算が終わってから発行されるため、退職後3週間〜1ヶ月ほどかかるケースも珍しくありません。 - 健康保険資格喪失証明書:
退職から次の会社の入社日までに空白期間があり、ご家族の健康保険(扶養)に入ったり、市区町村の役所で国民健康保険に切り替えたりする予定がある場合に必要となる書類です。自動的に発行されないこともあるため、必要な場合は退職前に会社へ発行を依頼しておきます。
離職票が手元に届かないと、ハローワークでの求職手続きをスタートすることができません。退職前に必ず、人事や総務の担当者へ「離職票や源泉徴収票はいつ頃発送されますか?」「退職後の書類の郵送先は、こちらの住所宛てにお願いします」と確認・伝達をしておくことで、退職後の手続きをスムーズに進めることができます。
ハローワークでの手続きと必要な持ち物(採用証明書など)
再就職手当の条件(ハローワーク登録後に内定等)を満たしている場合は、離職票が届き次第、現住所を管轄するハローワークへ行きます。
- まずは「求職の申し込み」と「失業保険の受給資格決定」の手続きを行います。
- その後、再就職が決まったことをハローワークに報告します。
- この報告の際、本当にその会社に就職したことを証明するため、新しい就職先に記入・押印してもらった「採用証明書」の提出を求められます。(採用証明書の用紙は、ハローワークで手続きをした際に渡される「受給資格者のしおり」に入っています)
手続きの順番や必要な書類は状況によって異なる場合があるため、必ず窓口で実際のスケジュールを伝え、漏れがないよう確認しましょう。
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5.雇用保険以外に忘れてはいけない手続き(健康保険・年金)
退職日から入社日までに
空白期間はある?
新しい会社が手続き
自身での役所手続きは不要です
収入見込みなど
扶養の条件を満たす?
家族の健康保険(扶養)に入る
国民健康保険への加入
または任意継続
退職時の手続きは雇用保険だけではありません。特に注意が必要なのが、健康保険と国民年金の切り替えです。退職日から次の入社日までに空白期間(ブランク)があるかどうかで必要な対応が大きく分かれるため、それぞれのケースにおける正しい手続き方法を確認しておきましょう。
ブランクなしですぐに転職する場合
退職日の翌日に新しい会社へ入社する場合(例:3月31日退職、4月1日入社)、社会保険の空白期間(ブランク)は発生しません。
この場合、対象者本人が市区町村の役所へ出向いて、健康保険や年金の切り替え手続きを行う必要はありません。新しい会社側で社会保険への加入手続きを行ってくれます。今の会社にこれまで使っていた健康保険証を最終日に返却し、入社後に新しい会社から新しい保険証が発行されるのを待つだけで完了します。
家族の健康保険(扶養)に入る場合
退職後、次の仕事が始まるまでに数週間〜数ヶ月の期間が空く場合、その期間の医療保険をどうするか決める必要があります。
もし、今後の収入見込みが基準(年間収入130万円未満など)を満たしており、配偶者や親などのご家族が加入している健康保険の条件をクリアできれば、「被扶養者(扶養家族)」として加入することができます。この場合、対象者本人の健康保険料の支払いは発生しません。
手続きは、ご家族の勤務先を通じて行うため、早めに家族に相談し、前の会社から発行される「退職証明書」や「離職票」など、必要な書類を準備しておきましょう。
※扶養に入らない場合は、お住まいの役所で「国民健康保険」へ加入するか、退職前の会社の健康保険を一時的に継続する「任意継続」の手続きを自身で行う必要があります。
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退職後の住民税の扱いは見落としがちなポイントです。こちらの記事で、転職時の住民税の手続きについてもあわせて確認しておきましょう。
6.正しい手順を確認して、安心して新しい職場へ
退職から新しい職場への入社にかけては、引継ぎなどの業務に加え、雇用保険や社会保険の切り替えなど、事務的な手続きが集中するため、心身ともに負担がかかりやすい時期です。
しかし、制度の仕組みを正しく理解し、一つずつ順番に手続きを進めていけば問題ありません。基本手当がもらえなくても再就職手当の要件に該当しないか確認し、空白期間の社会保険の扱いをどうするか、本記事の内容を参考に整理してみてください。漏れなく手続きを行い、安心して新しいキャリアのスタートを切れるよう準備を整えましょう。